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ちょいずらし?のデザイン【前編】dot studio 上野宏岳さん

ちょいずらし?のデザイン【前編】dot studio 上野宏岳さん

建築

富山の住宅や店舗の設計はじめ、家具製作、まちづくりも手掛ける「dot studio一級建築士事務所」。今回は、dot studioの若きデザイナー、上野宏岳さんにお話をお聞きしました。

建築設計だけでなく、グラフィックデザインや衣服のデザインなどマルチな才能を発揮する上野さん。2部構成の前編は、東京の建築設計事務所から富山に転職した経緯や建築への想いをお聞きしました!

ラボ

dot studioでの上野さんの役割、仕事を教えてください

上野さん

店舗の内装から、建築の空間全般までを手掛けていまして、シンプルにクライアントの要望を聞き、その空間を実現させることをベースとしています。東京の建築設計事務所(川辺直哉建築設計事務所)にいる時は、住宅とデザイナーズマンションと言われるものを多く手掛けていました。富山に来て、店舗の設計やその繋がりでサイン・グラフィックデザイン関係の仕事も多くなりましたね。

基本的には建築の設計をしていますが、営業的な活動もします。デザインで力になれることであれば、建築以外でも何でもやります。ロゴ、フライヤー、名刺、そして衣服も。店舗の設計に携わった時は、営業形態や事業計画まで参加することもありますね。もちろん、オーナーさんからご相談を受ければですが(笑)

 

仕事がマルチ過ぎる。本当に建築士なんですか…

上野さんが担当した「大泉の住宅」。軒上の半外部空間をつくり出し、車庫や中庭として機能させた

上野さんが担当した「大泉の住宅」。軒上の半外部空間をつくり出し、車庫や中庭として機能させた

上野さんが携わるアパレルブランド「L E N S E」

上野さんが携わるアパレルブランド「L E N S E」

パターンのデザインを担当されているとのこと

パターンのデザインの構想段階を担当されているとのこと

 

ラボ

ご出身は千葉県とお聞きしました。富山に来られたキッカケを教えてください

上野さん

出身は千葉県千葉市で、マツコデラックスさんと中学校が一緒です(笑)。

普通科の高校に進みましたが、小学校6年生の時には「建築家になりたい!」と決めていましたね。ただ、大学時に法政大学工学科建築学科(後に大学院修了)に進み、ガッツリと建築を学びに行きました。

dot studioは代表の沼俊之、増山武と私の3人がスタッフでいますが、実は3人とも同じ大学の研究室です。私は大学卒業後、川辺事務所に3年程在籍し、2015年に富山に来ました。沼さんに声を掛けてもらってdot studioに入り、気づけば早いもので5年が経ちました。

dot studioのメンバー。増山さん(左)、沼さん(中央)、上野さん(右)

dot studioのメンバー。増山さん(左)、沼さん(中央)、上野さん(右)

 

ラボ

建築家を志したキッカケはありますか?

上野さん

そもそも建築を志したのは、親戚に大工の人がいて、遊びに行った時に作ってもらった木製の船のおもちゃがキッカケでした。その船を作ってもらったのがすごく嬉しくて、一時期は大工になりたいと思いましたが、建築について色々と調べていくうちに、「建築家」という仕事が世の中にあるのだなと知りまして…。手を動かす作業も良いけど、2次元上で設計していくビジュアルがかっこよくて建築家に魅力を感じました。設計図面だけ見ると、専門的で堅苦しく感じますが、建築は人に夢を与えて、万人に開かれているもので親近感がある。それこそ、親戚の大工さんが楽しく、そして面白くものづくりをしているのを見て感じたことです。

建築とデザインには、とにかく熱い

建築とデザインには、とにかく熱い

ラボ

上野さんから見た「とやま」はどんなところですか?

上野さん

人が優しくて、雪がすごい(笑)。建築目線で言うと、自然が豊かなので様々な可能性を感じます。一転、自然の豊さで言うと東京は少し寂しい。特に環水公園はもっと可能性を感じるし、個人的に好きな場所ですね。

富山に来たばかりの頃、夜にふらっとお店に入った時は少し閉鎖感を感じました。この体験は、実際に設計する時に大事にしていて、開けた空間やオープンで引き込まれるお店づくりを意識して設計を手掛けています。ただ、設計だけではどうにもならないので、施主さんや施工者さんの理解と共感が必須ですね。

上野さんが担当した富山市総曲輪の飲食店「笑色」。

上野さんが担当した富山市総曲輪の飲食店「笑色」。自らの経験を活かし、視認性の高いガラス張り店舗に

 

ラボ

上野さんはこれからの「建築設計」をどう感じていますか?

上野さん

私が大学で勉強していた時は、SANAAなどアトリエ系の個性溢れる建築家の方が活躍されていました。私の入学当時は、意匠設計の研究室はとても人気がありましたが、大学院に進んだ時くらいでしょうか、後輩の中には意匠設計でなく、設備・構造設計に進む人が増えてきました。この頃から意匠性だけでなく、環境をデザインに取り入れた若い建築家が多くなってきたように思います。この背景には、環境問題や災害などの社会的な問題があって、建築設計も時代に向けて変わっていく仕事なのだと、しみじみ実感しましたね。でも、私は個性や作品性を押し出した設計が好きですけど(笑)。

上野さん

これからの建築家は、もっと色々出来るのでは?と感じています。例えば、自分で物件を購入して、設計し、飲食店を経営する。既にされている方もいらっしゃいますが、テナントを入れて賃貸を経営するとか。ただ、多角化を押し進めると建築設計としての仕事がボヤけてくるので、自分にしか出せないアイデアをより強固にして、根幹の提案アイデアや閃きを強くしなきゃいけない。設計をするうえで自分の視点とオリジナリティはすごく大事にしています。これは個人で設計するうえでも、一つのチームで設計するうえでも一緒です。常に自分の感じたこと、想いを持って取り組んでいます。

富山市総曲輪の飲食店「六腑」。建具を全開放にしてフルオープンでの営業が可能

富山市総曲輪の飲食店「六腑」。建具を全開放にしてフルオープンでの営業が可能

 

ラボ

最後に、建築を学ぶ学生や若者に一言お願いします

上野さん

「自由にやってください」ですかね(笑)。小学校の校長先生が卒業生それぞれの好きな言葉を直筆で書いて色紙のプレゼントをしてくれたのですが、私は「自由」って書いてもらいました。それは今でも実家の部屋に飾ってあります。ただ、自由って実は大変で、自分で考えないといけない。人生でも設計でも自分の中に選択肢をとにかく作ることが大事だと思っていて、選択肢があればあるほど、細かければ細かいほど可能性が広がりますよね。建築学部に入ったから建築系に就職しなければいけないわけではないし、I T系でも広告代理店でも、海外で農業をやってもいい。可能性をとにかく広げて、何でもやれる状態を作る。あとは、「ちょいずらし」です。

ラボ

「ちょいずらし」ですか…??

上野さん

ちょいずらし。これは大事です。ある一つの案があるとしたら、完全に否定や反対をいくわけではなくて、ちょっとずらした提案や視点を持つ。必然とオリジナリティにも繋がるし、私のデザインに対するテーマでもあります。

ラボ

長時間にわたるインタビュー、ありがとうございました!

上野さん

こちらこそ、ありがとうございました!良いこと言い過ぎましたかね?(笑)

後編は、富山駅前のCiCにオープンした「Sketch Lab」について−。

上野宏岳(うえの・ひろたけ)

PROFILE

dot studio一級建築士事務所

〒939-8081
富山市堀川小泉町1-4-12-2F
https://www.dotstudio.co

上野宏岳(うえの・ひろたけ)

1985年生まれ 千葉県千葉市出身
2011      法政大学大学院工学研究科建設工学専攻建築学領域卒業
2011−2014  川辺直哉建築設計事務所
2015     dot studio