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連載記事

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わかもん

富山工業高校生のプランが基になり、全国に先駆けて整備される職住一体の施設「富山県創業支援施設・U I Jターン等向け住居等(仮称)」が来春オープンします。「わかもん〜高校生のプランが現実に〜」は、「建築家 仲俊治✖️富山工業高校教諭 藤井和弥✖️とやま建設ラボ」の3者によって、この施設が完成されるまでを綴る期間限定連載です。

※隔週火曜日に公開

富山工業高校建築工学科科長

藤井(ふじい) 和弥(かずや)


「地方の若者が変えていく未来と社会」

今回は、本事業の基となった建築甲子園優勝のプランについてお話ししたいと思います。蓮町のリノベーションプランの全容が仲さんのコラムによって少しずつ見えてきた良いところで、当時の生徒らのプランを今ごろ僕が語るのはとてもタイミングが悪い気がするのですが(笑)。

魅力溢れる仲建築設計スタジオの提案と荒削りな高校生らの提案を見比べながら、その色々な違いや活かされた部分を発見していただけるのもとても面白いのではと思います。

第8回高校生の「建築甲子園」優勝作品「夢を描きながら住まうこと~地域を創るわかもん団地~」

 

団地に魅せられて

初優勝の甲子園では、テーマである「空き家」を富山市の市営住宅である「辰尾団地」に設定し、この団地をマーケット広場へ再構築し、かつエリア全体も段階的に改修を行い、「時・モノ・人」を連関させることを提案しました。

第7回高校生の「建築甲子園」優勝作品「時をつなぐ・モノをつなぐ・人をつなぐ〜団地からはじまる地域再生計画〜」

 

メンバーはその時からずっと「団地(住宅団地)」の良さを感じ取っていたので、今回も空き家を扱うのであれば、「団地で提案したいね」と話していました。団地の建設は、高度経済成長期を中心に日本各地で盛んに行われましたが、時代の流れの中で空間のスケールや設備が現代的ライフスタイルには適合しなくなったり、老朽化や少子化など様々な問題に伴って近年では空き室が目立つようになってきました。

しかし、当時においては食寝分離(寝る場所と食べる場所が分かれていること)の先進的な間取りだったり、流し台や水洗トイレなどの近代的な設備に加え、採光や通風などの良質な住環境を得られること。また、敷地内には緑地や駐車場などが完備されている高スペックな建築であったため、子育て世帯を中心に人気が高く、長い間多くの人々の生活を支えてきました。

そのため団地には、衰退しても沢山の家族が活き活きと暮らしてきた痕跡や、広大な敷地と良質な周辺環境が残っているため、そこに何か建築的な手法を加えることで、新たな人々の受け皿として機能するのではないかと考えました。

そこで注目した団地が、富山市蓮町にある県職員住宅(蓮町団地)だったというわけです。

県職員住宅(蓮町団地)のドローン写真(©富山県創業・ベンチャー課)

 

蓮町団地は、15棟から形成された団地群であり、甲子園プランはその北1号棟から始まる提案を行いました。(実施案は2・3・4号棟をリノベーションする計画です)。

公共交通を活性化させ、その沿線に居住や商業などの都市の諸機能を集積し、公共交通を軸としたコンパクトシティ化が進む富山市中心市街地。そして、古くから日本海側の主要港であった岩瀬地区を結ぶライトレールの沿線に位置します。徒歩5分圏内に蓮町駅があり、市民の交通手段として愛用されています。

自動車を持たない人にとっても交通の利便性は非常に高く、周辺には富岩運河と呼ばれる川や、テニスコートがある馬場記念公園など、十分な広さの公園や整備された緑地などの豊かな屋外環境を有します。

しかし、貴重な場でありながらも全15棟もあるすべての団地において、居住者の衰退によるゴーストタウン化などが深刻な問題となっていました。

蓮町団地周辺図

 

そこで私たちは、空き家となってしまった蓮町団地を、「コワーキングスペース」「レンタルオフィス」「保育室」「創作活動スペース」「ギャラリー」そして「シェアハウス」の機能を持たせた、職住一体型の複合施設にリノベーションするという提案をしました(実施案の諸機能・諸室とは異なっています)。

あまり馴染みのないコワーキングやレンタルオフィスといった言葉ですが、独立して働く個人が机・椅子・ネットワーク設備などの実務環境を共有しながら仕事を行う場所を「コワーキングスペース」。机・椅子・電話などを備える小スペースや、オフィスとして借りることを「レンタルオフィス」といいます。ビルなどにオフィスを借りるよりも、低いコストで借りることができます。

また、コンペの提案をするうえで、この団地が誰のための建築物なのか、主人公を明確にすることが地域の活性化につながる大切な要素だと考えました。前回の僕のコラムでも話しましたが、その主人公は、地方や地域に住む若者です。

成熟し、グローバル化が進む社会において、現代の若者は現状に満足し今以上に発展させようとする意識が低く、「さとり世代」とレッテルが張られてしまいがちです。しかし、これからの地方を担っていくのも若者です。そんな若者たちが夢を抱き、また、夢を叶えることができるような計画を私たちは目指しました。

 ライトレールによって、コンパクトシティ化が進む富山市中心市街地と郊外の岩瀬駅が結ばれていますが、その間にある蓮町団地に夢を追う若者や夢を叶えたい若者が集まります。

それは例えば、プログラミングが得意でアプリの開発者を目指している若者だったり、洋服が好きで将来自分のブランドを立ち上げたいと考えている女子学生だったり、アーティストのたまごや、将来自分の店を持ちたい人、子育てをしながら起業を目指す女性など、夢を追う若者たちが集まります。彼らは、同じ場所で仕事をしたり、共同生活を行いながら互いに刺激し合い、様々なコラボレーションが実現します。

若者と団地と地域の関係(若者がチャレンジできる場を創る)

 

また、彼ら若者はフェイスブックやツイッター、インスタグラムなどのSNSツールを使いこなし、他にはない強みを持っています。彼らの行う個々の活動やイベントの様子、普段の生活が地域や国境を越えて様々な世界へ発信され、たくさんの人を巻き込んでいきます。

それが新たなビジネスチャンスに繋がったり、行政などが蓮町団地に注目し、全国にある団地の改修計画につながることがあるかもしれません。

地域社会も発信された情報を知ることで、人々が蓮町団地を訪れ、行き交います。これからを担う夢を追う若者の手によって、地域が活性化することを目指しました。

ここまではソフト面(形の無い要素)の話ですが、次はハード面(形の有る要素・団地建物)をどのような建築的手法によりリノベーションする提案をしたのかをお話しします。

蓮町団地北1号棟は、昭和42年に竣工した鉄筋コンクリート4階建て「壁式構造」の県職員住宅です。「階段室型」と呼ばれる集合住宅の形式で、16世帯の4階建てで24世帯住むことができます。間取りは厨房を中心とした居室が3つある3DKタイプです。

蓮町団地北1号棟平面図 

 

「階段室型」の集合住宅であるため、平面的にも断面的にも1住戸ごとが完全に分断されてしまっています。そのままでは建物を広々と使うことができません。

蓮町団地北1号棟断面図

 

しかも「壁式構造」は、荷重や水平力を負担する主要な部分が床や壁であるため、コンクリート躯体の水平方向や鉛直方向に簡単には穴をあけられないという制約がありました。みんなで話し合った末、外部に空間を拡張して全体を繋いでいくという案になりました(仲さん案では緻密な構造解析により、中廊下である「横糸」を通す穴をあけることに成功しています)。

高校生の考えた改修のプロセスはこうです。

まずはじめに、既存団地の内装材をはがし、鉄筋コンクリートの躯体のみとします。この状態ではまだ壁やスラブで各ブロックが隔てられています。

既存の住棟の解体(模型)

 

次に、鉄骨フレームによる足場をつくります。ベランダの先に中間領域をもう1段階拡張しつつ、耐震効果をもたせます。

耐震補強兼ねた屋外空間の拡張(模型)

 

 

鉄骨フレームによる足場に、ところどころ吹き抜けを設けながら床を張り、階段を取り付けて外部空間を拡張します。この立体的な共有スペースである場所をコモンテラスと名付けました。

立体的なコモンテラス(模型)

 

 

最後に内装の下地材をルーバーや手すりとして再利用・再編集し、南側の日照調整や拡張されたコモンテラスのインテリアとします。

蓄積されたモノによる再編集(模型)

 

このように、新設された鉄骨フレームによって分断された団地の躯体が、水平や垂直方向に立体的につながります。このつながりが人々の生活にも面白い影響を与えます。

例えば、コワーキングスペースでアプリを開発しようとしている学生と創作活動しているアーティストが、ランチタイムにコモンダイニングで出会い、お絵かきアプリの開発について語りあい、保育室で遊ぶ園児の様子からインスピレーションを受けてコワーキングスペースで仕事をする。建築デザイナーのたまごが新しい遊具を考案し、ユーチューブやツイッターで発信することで第3者からの評価を探ったりと、様々なコラボレーションが生まれます。

シェアハウスに住む人もテラスを使って直接創作スペースやコワーキングスペースを利用することで、外から来る人々とも交流が生まれます。またコモンテラスで活動が行われることで、外から見ても楽しく、団地を利用する人だけではなく、地域の人も巻き込みながら建物内外を利用することができます。

改修後住棟断面パース

 

段階的な改修

またコンペ案では、1号棟から始まり、2号棟、3号棟へと、実態に合わせて改修を進めていくことを目指しました。住棟間のスペースはマーケット広場やイベントスペース、保育室の園庭、ランニングコースとなり、富岩運河に近くなった場所では、ウォータースポーツの場などとして有効活用し、にぎわいを創出しながら地域の環境を巻き込んでいきます。

段階的な改修と住棟間のデザイン

住棟間の様子その1

新設されたコモンテラスにより内部の活動が外に開かれることで、みんなで食事をしたり、誰かの話を聞いたり、外から人を招き入れたり、みんなで何かを作ったりと様々なコミュニケーションが生まれます。2号棟、3号棟へと拡張されることで、多種多様な夢を持つ若者が集まり、若者の夢がたくさん詰まった、エネルギー溢れる団地へと再生されます。

団地の棟と棟の間では、週末になると多くの地域住民が集まり、フリーマーケットを行ったり、鉄骨のフレームにスクリーンを取り付け、学生が作った自主制作映画の発表や、地元スポーツチームのパブリックビューイングを行ったりします。

 

住棟間の様子その2

 

保育室の園児達がのびのびと遊ぶ様子に若者がインスピレーションを受けたり、ヨガ教室が開かれたりと様々なアクティビティがここでは生まれます。

住棟間の様子その3

 

当時のコンペ案では、「さとり世代」と呼ばれるような現代の、そして「地方」の若者にスポットライトを当て、その世代の持つSNSのスキルを使いながら、地方で発信し、地方を若者が盛り上げるという提案をしました。ハード的にも壁式構造に対抗するため、コモンテラスによる空間の拡張や回遊性をもたせようとしました。

「全国優勝」という評価が得られたことで、富山みたいな地方にいる若者にも社会や未来を変えられるんだ、という自信が持てましたし、若い世代への期待や激励をしていただけているような気持ちにもなりました。

何より富山みたいな田舎にいても「微妙」と言って富山ディスりをしていた生徒らとこんな偉業を達成できたことが、監督冥利・教師冥利に尽きる体験でした(笑)

そしてこれらを下敷きに、富山県創業・ベンチャー課と仲建築設計スタジオの皆さんを中心に、より幅広い層の人たちの夢や目標を応援するための場所になり魅力的で素晴らしい手法によって、蓮町団地とこのエリア全体が生まれ変わろうとしています。

 若者の持つ好奇心やエネルギーには地域や社会を変えていく力がある」と、私は本気で信じられるようになりました。

藤井和弥

PROFILE

富山工業高校

藤井和弥

富山工業高校建築工学科科長
1982年生まれ。富山県高岡市出身。
2016年・2017年に出場した建築甲子園で、同校の監督として2連覇に導く。
2017年の優勝作品「夢を描きながら住まうこと〜地域を創るわかもん団地〜」は、富山市蓮町の県営住宅を改修して行う「創業支援施設・U I Jターン者等住居事業」として実現する。2022年春に完成する予定。
横山天心氏との共同設計「街のヴォイドに開く町屋」は、2020年度グッドデザイン賞を受賞

富山工業高校建築工学科 Instagram
https://www.instagram.com/tomikoarchitects/