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連載記事

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わかもん

富山工業高校生のプランが基になり、全国に先駆けて整備される職住一体の施設「SCOP TOYAMA」(富山県創業支援センター / 創業・移住促進住宅)が今年秋にオープンします。「わかもん〜高校生のプランが現実に〜」は、「建築家 仲俊治✖️富山工業高校教諭 藤井和弥✖️とやま建設ラボ」の3者によって、この施設の完成までを綴るコラム連載です。

※隔週火曜日に公開

特別対談

岩佐(いわさ) 明彦(あきひこ)   (なか) 俊治(としはる)


「地域社会の創造と交流の場づくり〜SCOP TOYAMAをめぐって〜」(前編)」

「わかもん〜高校生のプランが現実に〜」Vol.22は、特別対談第2弾として、法政大学デザイン工学部建築学科の岩佐明彦教授と、私、仲俊治の対談企画(前編)をお届けします。

対談に先立ち、岩佐教授には「SCOP TOYAMA(富山県創業支援センター/創業・移住促進住居)」の最近の様子をご説明しました。そのうえで、蓮町事業のご感想・ご意見をいただき、リノベーションや創造と交流の場のデザインに必要なものを中心に、ご意見をお聞きしました。

仲俊治

本日はありがとうございます。蓮町団地を用途変更して増改築をするというものですが、まずはそのご感想からお聞かせいただけますか?

岩佐明彦

いきなりですが、実を言うと、私の大学生の卒業設計テーマが「団地の再生」でした。

岩佐研究室では「多様な公共空間創出のための実践的研究」などをテーマに、日々研究に励んでいらっしゃいます

え??!そうなんですか??

岩佐

東京都板橋区にある12〜13階の「高島平団地」の再生がテーマで、このプロジェクトを拝見した時はやっと自分の時代が来たかと思いましたよ(笑)。当時はリノベーションなんて言葉はなくて、再生とかリフォームなんて言われていた時代でした。当時は若いなりに解体するのはもったいないなと思っていました。

高島平は自殺の名所とも言われていて、電車の終着駅にコンクリートの塊が寂しくあって、廃れているネガティブな場所でした。ただそういったところを潰すのではなくて、上手く再生できればいいなと思っていました。

蓮町の団地は、階段室型ですよね。高島平団地は片廊下型で住戸がぎっしり詰まっていたので、卒業設計では中をくり込んで洞窟みたいなスペースをつくる提案をしたことを思い出しました。蓮町事業の計画を仲さんから聞いた時は、遂に団地のリノベーションが行われる時代が来たなと思うと同時に、自分の卒業テーマを振り返って懐かしさも感じました。今回は建築甲子園で優勝した高校生の案が採用されているとのことで、様々な情報発信が実現の道筋をつくる一つの方法なのだなと思いました。

SCOP TOYAMAに改修前の「旧県職員住宅」(提供:富山県創業・ベンチャー課)

SCOP TOYAMAの完成イメージ(提供:仲建築設計スタジオ)

団地は小さいユニットがいっぱいあって、それぞれの中(住居)で生活が完結することの寂しさを考えた時に、いかにそれを繋いでいくか。階段室とは違う繋がりを考えていくか。セミラティスだったり、縦糸・横糸だったり、様々なパターンの住宅を入れることで、いろんなライフスタイルの人がやって来たりするかもしれません。これを本当の現実の空間として実現されていることが凄い。完成したら是非再訪したいですね。

縦糸に横糸を重ねて、セミラティス化する(提供:仲建築設計スタジオ)

デッキも外と内が繋がって気持ち良さそうですし、隣の馬場記念公園の魅力的な芝生、ひょっとしたら誰かがテニスしているのも見えたりするかもしれませんよね。凄くいい雰囲気ですね。

あとは、やはり高校生や若者でしょうか。地方の悩みは仕事がなかったり、大学の進学などいろんな理由で彼らが田舎を離れていくことだと思います。個人的にはずっと故郷にいるよりも、若い内は東京や大阪の人の多いところに行ってみたりだとか、環境を変えてみることも良いことだと思います。しかし、一定数はいつか故郷に戻って来て欲しいですよね。

SCOP TOYAMAに隣接する馬場記念公園。芝生広場では地域の様々なイベントが開かれる

高校生くらいまで過ごした故郷に戻ってくるかどうかは、それまで過ごした体験が効いてくる気がしていて、高校生なりに自分の居場所や役割、やるべきこと、そして活躍できるものがちゃんとあることの体験を出来るかが重要です。

建築甲子園で優勝した高校生が、今回の成功体験で得たことは、自分のまちの問題に対して、きちんと提案すれば大人はちゃんと対応してくれたということだと思います。空間的な居場所はもちろん重要だと思いますが、自分たちの役割や仕事、働きがあったという体験が何年後に効いてくるのではないでしょうか。

2017建築甲子園の優勝メンバー。4人の考えたプランがSCOP TOYAMAの基になっている

施設にはカフェもあるとのことで、ひょっとして富山工業高校生は運用にも携わるんですか?

運用はしませんが、運営に必要な看板をつくったり、カフェの中の家具、照明、グラフィックをつくりましたまた、家具を修繕することもできる「ラボ」を作ります。高校生の詰所のようなイメージですね。

富山工業高校生が製作した椅子のひとつ  photo by Takahiro Takemori

同じく富工生が製作した照明のひとつ。椅子と照明はSCOP TOYAMAのカフェに設置される(提供:富山工業高校)

岩佐

いいですね。この事業が20〜30年後の投資になっている気がします。富山工業高校に進学する人は、先生や先輩からこの事業の事を聞いて親近感が湧くでしょうし、この施設への敷居の低さが生まれるはずですね。自分が高校の時にはとても経験出来ることではないので、羨ましいです!

椅子と照明などはデザイナーと高校生がワークショップで製作。写真は今年2月に大々的に開催された製作発表会(提供:富山工業高校)

高校生の発案したことが現実になる。全国的にも珍しい事業だと思います。話は少し逸れますが、少し前に富山県立滑川高校の生徒が「課題魚(ローカルフィッシュ)」で作った缶詰を審査する全国大会で、生徒の作ったイワシの缶詰が最優秀賞に選ばれたとのニュースを見ました。高校生の存在感は地方都市において大きいですね。

岩佐

事業は必ずしも実現しなくてもいいと思うんです。今回の蓮町事業はミラクルケースですし。

確かにそうですね。

岩佐

恐らく多くの高校生は、自分の考えたことなんてつまらない、聞いてもらえないと考えていると思うんです。しっかりと受け入れる回路が大切です。

次の質問にいきたいと思います。今回は創業や移住がテーマの建築です。プライバシー保護の塊であった団地から大きく変わります。無難な建築であればいい、というものでもありません。岩佐先生は「創造と交流の場」のデザインには何が大切だと思われますか?

岩佐

クリエイティブな環境を作るにはどうしたらいいか?ですよね。ちなみにリチャード・フロリダの「クリエイティブシティ論」をご存知ですか?3つの「T」が重要だと言っていて、技術(technology)、 才能(talent)、寛容(tolerance) だと。

この場所であれば「何をやってもいいんだ!」という自由な雰囲気が大事で、何でも受け入れられる場所があることの重要性ではないかと思っています。こうした場所をどう作るか。何となくその場にいることが許されるような寛容さです。

例えば、富山型デイサービスでは、高齢者も障害者もそうでない人も、誰でも集まれる場所が実現しています。高齢者と子供が一緒にいることが実は双方にとってメリットになっていたり、いろんな人が一緒にいることで豊かな場所になっている。富山はそんな面を既に持っているかもしれません。

少しの不自由さ、変なスペース、隅っこ。型にはめられていない所こそがクリエイティブの芽生える場所になる可能性があります。例えば、蓮町事業で言うと、馬場公園でテニスをしている人や散歩をしている人、遊んでいる子供が施設にやってくることもあり得ますよね。旧県職員住宅なので、昔そこに住んでいた人がやってくる可能性もあるでしょう。

昔住んでいた方には複数名、お会いしました。改修工事(リノベーション)は、やりたいこととやれることのギャップの落とし前をどう付けるかの毎日です。発見的な設計プロセス、とも言えて、「この隙間はこう使えるのではないか」「これをこうしたらいけるんじゃないか」と。リノベーションのルーズさだけじゃなくて、いい意味でクリエイティブな状態は既にあるかもしれません。

2号棟4階アパートメントの内部(提供:仲建築設計スタジオ)

岩佐

施設の利用者も使っていけばいくほど、色んな発見があるかもしれませんね。

隅が凹んでいるところをなるべく居場所になるようにしています。形の目的外使用、とでも言いましょうか。そのために作られた形でない所をあえて良い場所となるように心がけています。

岩佐

玄関の牛乳BOXなんて、今後メッセージBOXに変わったりするかも(笑)。

富山は建築も土地も豊富なので、東京と比較するとリノベーション文化は起きにくい場所かと思っています。富山は一人当たりの住宅の面積が一番大きいですし、人口あたりの工務店の数も恐らく一番多いのではないでしょうか。最近の東京は、リノベファーストになっていて逆に新築の話題が出しづらい。うちの学生が卒業設計の提案をしてくる際に、新築の案件だと何故か申し訳なさそうにしていますよ(笑)。

2・4号棟(住居)の玄関横に設置されている牛乳BOX

創業支援センターで言うと、廊下を歩いて行く時に「何がどこまで見えるか」を検証しました。同じ廊下を歩いていても視界が抜けている場所を意図的につくり、光の入り方も連動させて、あえて差をつけようとしています。

これが歩き回るモチベーションになればいいなと。寛容さとは少し違うかもしれませんが、施設内を動き回ることが単調にならないようにしたいと考えました。

岩佐

それはいいですね。人が創造的になる瞬間は、歩いている瞬間に訪れる時が多いそうです。ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタインのアイデア「3Bの法則」によれば、アイデアがひらめくのは、①Bath(お風呂)②Bus(移動)③Bed(就寝時)と言われています。僕も家の中でくるくる歩き回って考え事している時があります(笑)。

寛容さの面で言うと、人との接し方は色々あっていい。直接関わりがあるわけではないけど、その場に何となくいる。密に交流するわけではないけど、その場所を共有している。それも寛容さの一つ。ここは「ガンガン交流する場所です!」みたいなテンションが高すぎるところに居づらい人もいるわけです。

直接的にビジネスに関係のない高校生やパークゴルフ上がりのおじいちゃんなんていいんじゃないですかね?ある種の「緩さ」は重要な気がします。

今のお話を伺って思うのが、例えば住居棟となる2号棟や4号棟の1階にはコモンリビングと呼ばれるキッチンがあります。2区画続き間にしているので玄関が2つあり、さらには新設したテラスからも出入りできます。あちこちからアクセスできるようにしました。

ここではベンチやカウンターのスツールでご飯を食べることができ、ご飯の食べ方もいくつかの場所を用意して、選べるようにしてあります。みんなと食べたり、同じ空間にいるにしても距離を取って静かに食べたり。

コモンリビングのベンチ(提供:仲建築設計スタジオ)

岩佐

そうですね。賑やかな場所に一人でいるのも悪くないですよね。意外とそんな賑やかな場所で仕事する人が現れるかもしれません。

確かに。よく思うのですが、みんなが集まれることと同じくらい、人知れず立ち去ることが出来ることも重要かなと思います。出入口がいっぱいあるとそれも可能かななんて。大勢でイェーイ!というのが、日常だとすると、個人的にはちょっと苦手です…。

岩佐

その気持ちわかりますよ!それも含めて寛容さです。そんな場所だからこそ、普段訪れないような人が来たり、埋もれている貴重な能力を持った人を発掘できたりする可能性もありますよね。

〜前編終了〜

後編は…
・「何をつくるか考えること」は堅苦しい建築になるのか?
・「活動や交流の場づくり」と「結局、ヒトだよね?」論
・地方の学生に出来ること

岩佐明彦

PROFILE

法政大学デザイン工学部建築学科 教授

法政大学 デザイン工学部建築学科
〒102-8160
東京都千代田区富士見2-17-1

岩佐明彦

【岩佐研究室URL】
http://iwasa-lab.ws.hosei.ac.jp/wp/

【最近の著書】
『仮設のトリセツ(主婦の友社)』
『まちの居場所(東洋書店)』
『まち建築(彰国社)』


【社会的活動】
日本建築学会正会員
人間・環境学会正会員

【業績】
日本建築学会著作賞
日本建築学会教育賞(教育業績)
人間・環境学会賞
JAABE BEST PAPER AWARD
グッドデザイン賞
仲俊治

仲建築設計スタジオ

東京都目黒区五本木3-21-6
https://www.nakastudio.com

仲俊治

建築家、仲建築設計スタジオ共同代表
1976年京都府生まれ。1999年東京大学工学部建築学科卒業、2001年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。
2001~08年山本理顕設計工場勤務を経て、2009年仲建築設計スタジオ設立。2009-11年横浜国立大学大学院Y-GSA設計助手、2019年第1回小嶋一浩賞。
主な作品(受賞)に、五本木の集合住宅(住まいの環境デザイン・アワード2019グランプリほか)、食堂付きアパート(第31回吉岡賞、日本建築学会新人賞、グッドデザイン賞2014金賞ほか)、上総喜望の郷おむかいさん(千葉県建築文化賞ほか)、白馬の山荘(第16回JIA環境建築賞優秀賞ほか)など。
主な著書に、『2つの循環』(単著、LIXIL出版、2019年)、『脱住宅』(共著、平凡社、2018年)、『地域社会圏主義』(共著、LIXIL出版、2012年)。