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連載記事

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わかもん

富山工業高校生のプランが基になり、全国に先駆けて整備される職住一体の施設「SCOP TOYAMA」(富山県創業支援センター / 創業・移住促進住宅)が今年秋にオープンします。「わかもん〜高校生のプランが現実に〜」は、「建築家 仲俊治✖️富山工業高校教諭 藤井和弥✖️とやま建設ラボ」の3者によって、この施設の完成までを綴るコラム連載です。

※隔週火曜日に公開

富山工業高校建築工学科科長

藤井(ふじい) 和弥(かずや)


「製作アイテム(グラフィック編)」

住居棟である2号棟と4号棟がついに完成し、残すところはあと創業支援の3号棟。いよいよ、ワークショップ(WS)から生まれたアイテムが「SCOP TOYAMA」の空間に並べられる日も近づいてきました。

夕景の写真。足場が取れ全貌が見えてきました(提供:仲建築設計スタジオ)

今回のコラムは、アイテム紹介のグラフィック編。製作の中で、最もみんなの頭を悩ませたのがこのグラフィックだったと個人的には感じています。

1年目WSでの生徒らと中尾千絵さん・仲俊治さんとの座談会

仲さんと生徒らが出会った直後から、みんなで(試験的にですが)ロゴやプロモーションムービーを考え、中尾さん達との2年間のワークショップを経て、現在ではグラフィックの施工を3年生が引き継いでくれています。

実際にグラフィックを施工する前に、学校廊下の壁で練習をしています

(その中には、実際の建築空間で採用するに至ったもの、提案で終わってしまったもの、デザインの学びに繋がったり、ワークショップに参加するみんなの気持ちを盛り上げ一つにするようなものまで、たくさんの成果物が出来上がりました)今日に至るまでどんなプロセスを経てきたのか、詳しく振り返っていきたいと思います。

【グラフィックの重要性】

おしゃれなカフェには必ずと言っていいほど、素敵な看板やロゴ、壁面グラフィックが店内外に描かれていますよね。椅子や照明といった立体物ではないため、それらと比較すると製作の難易度は低いように感じられます。しかし実際は全くの逆。

店内のインテリアの雰囲気を決定する大変重要な要素であり、下手するとグラフィックですべて台無しになる事だってありえます。他のグループが製作した椅子や照明とも調和のとれたデザインでないと、きっとみんなが残念な気持ちで終わってしまうでしょう。

そこで、ワークショップの一番初めのキックオフ回は、「こんなカフェがあったらいいな」というテーマの元、生徒らに話し合いをしてもらい方向性を決めてもらうための時間を、仲さんからいただきました。

自分たちで考えた、あったらいいなと思うカフェを互いに発表し合う

一つひとつのデザインがいかに優れていても、関連性のないバラバラなものでは、きっとこのカフェという居場所は、誰からも共感されない価値の低いものになってしまいます。

カフェの名前やロゴ、グッズや壁面グラフィックというものは、互いに影響し合っており、また、家具や照明といったインテリアの要素とも深く結びついてくるため、他のチームとの調整が必要なのです。

全員で話し合ったところ、「素材感」を大切にしたカフェを作ろう、という意見にまとまりました。自然な風合いや老若男女さまざまな人々にも親しみをもってもらえるような、優しいイメージのカフェです。

話し合いの結果「素材感」というキーワードにたどり着く

これは事業者がまだ決定していない中でのデザインなので、できるだけ強いカラーが打ち出されないようにすることと、建物の特性である地方都市の富山らしさも表現できるため、良い視点だったと思います。

既に紹介した椅子や照明も、まさに素材感を大切にした作品が多く出来上がっていました。

 

【1年目の取り組み】

1年目のWSでの一コマ(中尾さんと宇野さん)

そして、いよいよ本題。

グラフィックってどうデザインしていけばいいの??グラフィックってそもそも何だろう??

グラフィックデザイナーの中尾さんには、「グラフィックデザインの練習」として、ワークショップ1年目のお題を次のように設定していただきました。

① お店の名前とロゴを考えよう

② 看板のデザインを考えよう

③ 壁面グラフィックを考えよう

「こんなカフェがあったらいいな」をベースにお店の名前を考え、その名前に適したロゴデザインを考えます。そこからロゴを店頭表示するための最適な看板を考えます。

そしてお店のコンセプトに沿った壁面グラフィックは、どんなデザインであるべきかを考えます。

現地調査のとき中尾さんに課題の質問をしまくる女子生徒たち

実はWS1年目のグラフィックチーム、名前を一つに絞りきれず、2系統で製作を進めていました。折角ですからこの機会に紹介させて下さい(笑)。

 

【キナリ】

1つ目の店名は、「キナリ」です。

生成り(きなり)とは、手を加えないそのままの状態で、自然な風合いや素朴さを表す生地の種類を指します。生産地や土壌に影響されて色合いもさまざまあるところが、地方っぽさや、仲さんのコンペ案にあった縦糸・横糸を紡いでいく空間イメージにマッチしているところから名づけられました。

また、キナリという言葉の持つ布感や柔らかさを、ロゴや看板、壁面グラフィックに反映させていくため、生徒らは「ステッチ」をデザインの主軸におくことで、柔らかなものに包まれているような空間を目指すことにしました。

ステッチは、布地に刺繍をほどこしたり、素材と素材を縫い合わせたりする際にも用いられる針目のことです。試行錯誤の結果できあがったロゴがこれです。

キナリチーム考案のロゴマーク

ステッチだけでロゴを作る際、見た人のカフェとしての認知度を高めるため、分かりやすくコーヒーカップをモチーフとして使うことにしました。コーヒーカップのカタチを波縫いで型取りながら、最後に糸に戻して湯気の表現をします。

糸の要素が差し込まれることで、空間コンセプトをなぞります。柔らかさを出すための縫い目一つ一つのカタチや配置の調整にこだわり、縫い目の間隔もあえてバラバラにすることで、手縫いっぽい優しい感じも表現しています。

ロゴに対して文字もステッチで一体的に表しました。お店のロゴは、名前がしっかり読めるかどうかが大切になるので、画数の少ないカタカナで表現しています。

検討段階でのキナリロゴマーク

 

【つむぎ】

2つ目の店名は「つむぎ珈琲」と名付けられました。

「紡ぐ(つむぐ)」とは、繊維によりをかけて糸を作ることを意味する一方、「人との関係を紡ぐ」「物語を紡ぐ」「歴史を紡ぐ」というように、言葉や目には見えない貴重な何かをつなげて、一つにまとめるという比喩的な使い方もされます。

とても素敵な響きの言葉であると同時に、創業支援施設のような多くの人との出会いや関係性を構築する居場所にぴったり当てはまると思いました。また、そこに漢字で珈琲と付け加えることで、本格的なコーヒーが味わえそうなカフェのイメージへ更に昇華しています。これが生徒らの考案したロゴマークです。

つむぎチーム考案のロゴマーク

カフェのアイコンらしいコーヒーカップと、空間イメージの糸を関連付け、「糸巻き」をモチーフにロゴマークをデザインしています。糸巻きをできるだけ抽象化し、取っ手を付けるだけでカップのように見えるためとても相性が良いです。

また、訪れた人や創業しようとする人にひらめきと気付きを与えるような、イノベーショナルな場にしたいという意味も込めて、通常は湯気で表現するところをひらめきのマークに置き換えています。

中尾さんからのアドバイスを受けて一本一本の線の太さも調整してあります。初期案では、すべての線の太さを均一にするというものでしたが、真ん中の四本を太くすることで糸巻感やコーヒーカップとしてのロゴらしい存在感を増すこともできました。

初期案はまとまりのない固さの残る表現でした

また、ロゴ全体を構成するモジュールを決めてピッチの幅や円の中心を設定し描き、最後は見え方の微調整でその理論からずらしていくというような作業でロゴをデザインしました。

円を用い、ある規則性をもってデザインを進めてみる

また、フォントも生徒たちで作りました。最初は漢字もひらがなも斜めのラインなしで水平垂直のみで作っていたのですが、ちゃんと読めることや文字列の重心バランスを意識し、たくさん微調整をかけながら優しい雰囲気が出るように自分たちルールから外す作業によってデザインしました。

中尾さんに細かなアドバイスをいただきながら修正を重ねた

どちらのロゴも、初めはまるでぎこちなかったのですが、最終的に自分ルールから線の位置や円の中心を肌感覚で外したりずらしたりしていく事で、愛らしさが生まれました。

こういった作業では、理屈だけでなく普段から良いデザインをどれだけたくさん見ているかどうかが大事なのだと僕も気付かされました。

合板とカッティングシートを使った置き型看板

ペンキ塗装で下地を作っている

 

【壁面グラフィック】

次に店内の壁面グラフィックについてです。

キナリチームの壁面グラフィック。壁だけじゃなく床や天井面にも施す案

 

キナリチームは、ロゴとの一体感を出すため、ロゴで用いた「ステッチ」を壁面でも使用することにしました。そして、蓮町にまつわる都市基盤をモチーフに、それらを壁面いっぱいにステッチで描くというアイデアです。

蓮町にまつわる都市基盤に選んだのは、「ライトレール」「富岩運河」そして少し離れてはいますが、将来交わってくるときっと面白いという願いも込めて「サイクリングロード」の3本です。

ライトレールの車両と線路は濃いピンク、富岩運河と水上バスは水色、自転車とサイクリングロードをオリーブ色の糸で表現します。

これらのステッチがカフェ店内の壁、床、天井を縦横無尽に駆け巡り、それぞれが交わっていくことで、蓮町がこれからの人々の交流の拠点である印象をつくりあげます。待ち時間やふとした時に糸をたどって楽しんだりもできそうです。

一方、つむぎチームの壁面グラフィックは、のびのびと動きのある中にもストーリー性のあるグラフィックを目指しています。

つむぎチームの壁面グラフィック。考案したロゴマークを転用する案

コンセプトとしては、ロゴマークである糸巻きのコーヒーカップを擬人化し、キャラクターとして冒険させようというアイデアです。

配色はカラーパレットを用いてカフェらしい色調に

また、ロゴの中にあるひらめきのマークが壁面のいろいろな高さにばらついて配置されることで、座ってコーヒーを飲んでいたり、立ち上がったりした人の頭上に、ひらめきのマークが来ることがあります。

そんな何だか面白く愛らしい光景が、カフェの中全体に広がっていくと、訪れる人たちも笑顔になるのでは!と思いました。

 

【その他のアイテムたち】

家具や照明の班と比べ、立体的な成果物がなくやや寂しい思いをしている生徒らに、看板以外も作ってみたら?と提案したら、みんなとっても乗り気で取り組んでくれました。

そこで、2つのチームが共同でそれぞれのロゴを使い、実際にカフェで使われたらいいなと思うグッズを作ることにしたのです。グッズは中尾さんに製作方法のアドバイスをいただきながら、発注にも協力していただきました。

作りたいグッズの詳細をイラストに変換しながら中尾さんと打ち合わせをする

また、市民プラザで行われたプレゼンの際は、自作のカフェスタッフ用Tシャツを着用しました。色は白、茶色、ネイビー、アイボリーの4色展開です。

1年目WSの最終プレゼンの様子

カフェスタッフ用Tシャツの試作(つむぎチーム)

カフェスタッフ用Tシャツの試作(キナリチーム)

テイクアウト用オリジナル紙袋(つむぎチーム)

飲食店のコロナ対応でも注目されたテイクアウトに関するグッズとして、オリジナル紙袋とオリジナルカップスリーブも作りました。

オリジナルカップスリーブ(2色展開)

キナリチームの紙袋は、ロゴが裏表に一つずつ、ステッチが上下とも一周しているデザインになっています。ステッチはのびのびといろいろなところにまわせて応用が利くため、とても良いデザイン要素だと思いました。

オリジナル紙袋(つむぎチーム)

白インクは特殊な加工が必要なため、やや割高発注になりましたが、クラフト紙の淡い茶色にも白いステッチが映えていてみんなのお気に入りです。みんなで組み立ててサンプルをつくりました。

Tシャツ、紙コップはシルクスクリーンという製作方法でつくりました。シルクスクリーンとは、孔版印刷の一種で、メッシュ状の穴を作り、穴の部分だけインクを落として印刷するとてもシンプルな印刷方法です。

シルクスクリーンによるTシャツ制作

グラフィックを色々なアイテムに落とし込み、立体的なものに変換していく作業は、お店のテイストについて考えたり、利用者からのイメージを定着させるためのブランディングについて考えたりする一番楽しい作業となり、とても盛り上がりました。

ここまでが、ワークショップ1年目に行なったグラフィックチームの成果です。グラフィックって何?どうやって作っていくの?という問題を、お店の名前を仮定して進める事で、みんなでリアリティを持って学ぶことができました。

1年目のグラフィックチームと中尾さんの集合写真

(あくまでも仮定したお店の名前ですので、実際のカフェには採用予定はありません。これを見られた方で、もし名前やロゴに興味を持ってくださった方がおられましたら、是非ご連絡ください!!

【2年目の取り組み】

2年目WSのキックオフ回。 どの部分の壁にグラフィックを描くのかを仲さんが解説しているところ

2年目のシーズンでは、1年目で蓄積された学びを踏まえ、「チャレンジショップ」のカフェとして、最適なグラフィックの在り方を考えていくことになります。

チャレンジショップの性質上、店舗名を先行して決める事は当然出来ません。グラフィックチームの生徒らに対して、中尾さんから出された2年目のお題は次のようなものでした。

① カフェ店内の壁面グラフィックを考えよう

② トイレのピクトグラムを考えよう

お客さんが心地よく店内での時間を過ごせるような「壁面グラフィック」、そして、店内のトイレの場所を簡潔に指し示すための「ピクトグラム」をデザイン・製作することになります。

(昨年度までの流れを一旦リセットされての製作になりましたが、生徒らは先輩たちが残してくれた作品から、いろいろな要素を取り入れたり、影響を受けたりして、デザインに反映させるよう努めてくれました

 

【壁面グラフィック】

カフェ店内の壁面グラフィックは、一番大きな壁であるこの黄色の2つの面を対象に製作することになりました。

チャレンジショップカフェ店内のアイソメ図

北側のカフェテラスからの出入りも可能なため、コモンアーケード側とカフェテラス側のどちらから入ってもこの壁面が迎え入れてくれる視認性の良い場所です。

この壁の前には藤森アトリエ製作のベンチと、家具チームが製作したテーブル、そのうえには照明チーム製作のペンダントライトのOri、そして前期で先行して製作された各チームの椅子が配置される予定なので、それらと調和のとれた居心地がよくなるグラフィックデザインを目指しました。

 

【富山の原風景】

生徒たちは、創業や移住という、このエリアの持つ機能をヒントに、富山らしさをグラフィックで表現したいと考えていました。富山に対していろいろな人が心に思い描く、富山らしい「原風景」のようなグラフィックであれば、きっとオーナーさんやお客さんにも喜んでもらえると思ったからです。

そこで彼らが目をつけたのが、立山連峰と富山湾のある風景です。

©️公社)とやま観光推進機構

これは富山に住んでいる人ならば誰もが思い浮かべるだろう富山の暮らしを象徴する風景の一つです。海越しに見る3,000m級の立山連峰の雄大な眺めは、世界的にも評価される絶景と言われています。

©️公社)とやま観光推進機構

見る人の好みにかかわらず、本質としての富山らしさを感じさせる美しい原風景は、創業支援センターのグラフィックにはうってつけです。

生徒たちは、この風景をリアルなまま使うのではなく、みんなで製作しているアイテムたちと調和させるため、「抽象化」することにしました。大切にしたのは山と海(波)の稜線です。

立山連峰の稜線は、主だった山を残しながら25度という一定の角度をもった直線で表現することにし、一方、富山湾独特の「寄り回り波」と呼ばれる荒波や白波の雰囲気を、山のジグザグとは対比的に、有機的な曲線で表現することにしました。

抽象化された立山連峰と富山湾

 

【構成と配色】

カフェの空間は、既存間取りの壁が存在するため、どうしても2つの空間のように分断されがちでした。それぞれの壁面に別々にグラフィックを描いたとしても、カフェの空間自体が広くはないので、どうしてもせせこましくなってしまいます。

そこで、2つの空間をまたぐようなグラフィックとすることで、一つの空間としての連続性が得られるため、身体的な狭さを感じずのびのびとした雰囲気なるのではないかと考えたのです。

2つの空間を1枚の絵がまたがり、2種類の配色で構成される

また、真ん中の壁を介してそれぞれの配色を変えることで、同じ絵柄でも違った表情を感じさせ面白味のある空間を作れるのでは、とも考えました。

©️公社)とやま観光推進機構

©️公社)とやま観光推進機構

これは昼と朝夕の立山連峰と富山湾の風景です。このように実際でも時間帯によって全く違った表情が生まれています。この点を配色に活かします。

 

【完成したデザイン】

様々な配色を検討して完成したグラフィックがこれになります。

検討を重ね完成した壁面グラフィックのデザイン

実際に置かれるアイテムを添景として加えてみる

お客さんの居心地の良さにつながるよう、2つの室で、共通の色を持たせたり、暖色と寒色のバランスを整えながら配色を決定していきました。空、山、海の面積比を調整して、店内が暗くなりすぎないような配慮もされています。

コモンアーケード側からみた店内の壁面イメージ。天井の白色と背景の空の色が連続しているため、明るく広く感じられると考えている

こちらは北側のカフェテラス側からみた壁面のイメージ。どちらの空間も暖色と寒色を一対にしてバランスを考えながら配色してある

オレンジ系の暖色をベースにした部屋とブルー系の寒色をベースにした部屋。同じ1枚のグラフィックでも、壁のあっちとこっちを行き来することで、異なる雰囲気を体感できるという狙いがあります。

この壁面グラフィックから、富山らしさ、蓮町らしさ、高校生らしさがこの建物に宿り、たくさんの人に富山を好きになってもらい、この場所で夢を語り合ってもらえる、そんなポジティブな場所になってくれると嬉しいです。

グラフィックの方向性を決定するために、家具や照明も含めた全てのチームとデザイナーが集まり検討会をおこなった

それぞれの思いをぶつけていく白熱したやりとりが繰り広げられた

 

【ピクトグラム】

もう一つのお題のピクトグラムは、カフェ店内にあるトイレが対象で、一つしかないので男女兼用になります。

自由な発想のもと製作を進めるうちに、生徒たちは一つの動画の存在を思い出すことに。それがVol.08のコラムでも紹介したこのプロモーションムービーです。

 
 
 
 
 
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仲さん案のコンセプトである「暮らしを編む」の言葉にインスピレーションを受け、糸をモチーフに、それがにょきにょき現れて3人の人型になり、手を取り合って最後は3棟が並んだシルエットを象るという、楽し気なストーリーになっています。

この3棟のシルエットからピクトグラムを構成することにしました。

3棟の団地のシルエットを抽出する

3棟の団地のシルエットから、胴体となる部分を切り出し、頭を付け加え、左右で色を塗り分けることでトイレのピクトグラムにしていきます。

トイレのピクトらしくなるように調整を重ねる

壁面グラフィックとの雰囲気を合わせるため、色調やラインの丸みも調整し、最終的にできあがったピクトグラムがこれになります。

完成したピクトグラム

団地の形が隠れていることだけでなく、人と人が手を取り合っているようにも見えるため、創業支援施設のトイレとしてふさわしくなったと考えています。

教育文化会館での最終プレゼンテーションの様子

 

デザイナーの皆さんからは・・・

今年は抽象的なものをモチーフにデザインを進めてもらったが、これは難易度が高いことで、本当にしっかりやってくれたと思う。

仲事務所のスタッフ含め3人で富山に移住してこの事業に取り組んでるけど、やっぱりこの富山の山ってほんとに素敵だなぁって思う。富山の皆さんにとっては馴染みがありすぎて、むしろデザインのモチーフにするのが当たり前すぎたと思ったかもしれないけど、移住してきた我々にとってはそうじゃない。それがこうやって形になって良かった。

今回は特に、富山県外からやってくる人向けの建物でもあるから、そういう意味で当たり前のものをモチーフにしてもいいんじゃないかなと。ちなみに出来上がったら見つけて欲しいんですけど、3号棟の創業支援センターの中で山がはっきりと見える部屋が一つ二つあるので、完成したらぜひ探しに来てほしい。(仲さん)

 

基本的には、どんなオーナーさんがお店に入るか分かった状態でデザインは始まる。今回はどんなお店が入るか分からない所からだったので、本当によくやってくれた。

グラフィックは、壁の色や照明だったり家具との関係性にも影響を与えてしまう。空間に及ぼす影響がめちゃくちゃ大きいので、その中で照明チームの学生さんや他のチームの人からもいろんな意見が出て白熱していたけど、これは実際の仕事でもそういうことが普通に起こってるので、ある意味リアルな体験をしてもらえたんじゃないかなと思っている。

自分から調べて既存のものからヒントをもらったり、「トイレのピクトグラムとその壁面グラフィックのバランスってどうやったら取れるんだろう」と投げかけただけで、その調整をしてくれたりとか、少しヒントをあげるだけでそれに対してたくさん勉強し、ブラッシュアップしてきてくれたのがすごく良かった。(中尾さん)

2年目のグラフィックチームと中尾さんの集合写真

 

【3年目の取り組み】

そして、現在です。

先輩がデザインしたグラフィックを引き継ぐために集まってくれた新3年生のメンバー。そして、そこに塗装のプロの方々を講師に招き、技術指導をしていただけることになりました。みっちり教えていただいて、きれいな仕上がりを目指します。

講師を引き受けていただいたのは、塗料・塗装関連機器の提案および販売を行っておられる株式会社佐伯治一郎商店の芝田さん、塗装工事のプロである株式会社ATOJIの阿閉さん、さまざまなDIY工事を得意とするBROOKLYN STYLE WOOD WORKSの横山さんの3名です。

まずは、芝田さんに塗料についての専門的な講義をしていただきました。芝田さんには、今回グラフィックに使用する塗料の色も調合し納品していただいています。

豊富な経験と知識に裏付けされた塗料の種類や施工方法のお話は大変興味深く、あっという間の時間でした。これまで何となく使っていた塗料や塗装道具、マスキングテープなどを見直していく良い機会になりました。

佐伯治一郎商店の芝田さんによる塗料に関する講義

BROOKLYN STYLE WOOD WORKSの横山さんからは、きれいに壁面グラフィックを施工するための手順をレクチャーしてもらいました。特殊な道具は使わず、自分たちの持っている使い慣れた道具だけでどうやったらきれいにできるのか、一緒に悩んでもらいました。

施工方法を真剣に聞き入る今年のメンバー

これでいきなり、「さあ現場でやるぞ」とはなりません。現場に入る前に教えていただいたやり方で一通り練習することにします。実験台になったのは、学校の実習棟の廊下です。

富山工業高校の事務部長さんにお願いしたところ、練習で描いたグラフィックは残していただけることになりました。

塗装で一番大事なマスキングテープによる養生作業

実寸で出力した型紙とマスキングテープでしっかりと養生していく

刷毛とローラーを使って塗装していく

ローラーの使い方を教えてくれている横山さん

教えてもらった通りに、とにかくやってみる

一通り完成

塗装面はとてもきれいに仕上がりましたが、波を表す曲線をもっときれいに表現したいところ。やり方の手順を少し修正してマスキングの養生の精度も高めていくことが鍵になりそうです。

本番まであと少し、事業に携わるみんなに顔向けできるようしっかりやり切りたいと思います!

藤井和弥

PROFILE

富山工業高校

藤井和弥

富山工業高校建築工学科科長
1982年生まれ。富山県高岡市出身。
2016年・2017年に出場した建築甲子園で、同校の監督として2連覇に導く。
2017年の優勝作品「夢を描きながら住まうこと〜地域を創るわかもん団地〜」は、富山市蓮町の県営住宅を改修して行う「創業支援施設・U I Jターン者等住居事業」として実現する。2022年春に完成する予定。
横山天心氏との共同設計「街のヴォイドに開く町屋」は、2020年度グッドデザイン賞を受賞

富山工業高校建築工学科 Instagram
https://www.instagram.com/tomikoarchitects/