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連載記事

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わかもん

富山工業高校生のプランが基になり、全国に先駆けて整備される職住一体の施設「富山県創業支援施設・U I Jターン等向け住居等(仮称)」が来春オープンします。「わかもん〜高校生のプランが現実に〜」は、「建築家 仲俊治✖️富山工業高校教諭 藤井和弥✖️とやま建設ラボ」の3者によって、この施設が完成されるまでを綴る期間限定連載です。

※隔週火曜日に公開

仲建築設計スタジオ

(なか) 俊治(としはる)


「住む、はたらく、つながる」

はじめまして。仲建築設計スタジオの仲俊治と申します。共同代表の宇野悠里と一緒に、富山県の創業支援施設・UIJターン者等住居等(仮称)整備工事の設計を進めてきました。現在は来年春のオープンを目指して工事が進んでいます。今春からは僕とスタッフの3名は富山に移り住み、監理業務(工事の内容を確認する業務)にあたっています。竣工まで、少し長期間に渡りますが、このコラムを担当することになりました。よろしくお願いします。

さて今回は初回ということで、プロジェクトの概要を紹介することから始めたいと思います。

設計者選定プロポーザルについて

富山県創業支援施設・UIJターン者等住居(仮称)は、築50年ほどの県職員団地をリノベーションして、起業したり移住したりしたい方々のために、「職と住の受け皿」として整備するプロジェクトです。

エリア全体のイメージ(提供:仲建築設計スタジオ)※画像は計画段階のものであり、最終的な仕上がりと異なることがあります

このような一体的な受け皿の整備というのは全国的にも先進的な事例でしょう。「県の顔」となる重要なプロジェクトといえます。リノベーションといっても、用途変更や増築が伴いますし、各部屋の機能や内容をしっかり詰める必要もあり、大変に高度な内容です。このような施設の設計者を選定するためのプロポーザルが2019年の夏に行われ、僕たち(仲建築設計スタジオ)が選定されました。

積極的な意味のリノベーションが公共建築のプロポーザルになることは徐々に増えていますが、リノベーションという時点で、「定型的な」設計作業でないことは明らかです。既存の建築物の状況に応じて、対応しなくてはいけませんから。

加えて、「何をつくるか考える」といったソフト的な視点を意識せざるを得ないプロジェクトであれば、どんどん定型的な作業から外れていきます。もともと長野や石川で仕事をしていて、勝手に富山に親近感を持っていたものの、業務の難易度は大変なものだと想像できました。それでも僕たちがプロポーザルに取り組もうと思ったのは、僕たちが設計活動を通して、「職と住の融合」の可能性を追求していたからです。

住宅は通常、核家族のためのプライバシー満点の「箱」として計画されますが、家族構成の変化や情報技術の進展などを踏まえると、そればかりが正解ではありません。特に個人ベースの仕事やお店があるといろいろな接触の機会があったほうがいいですし、創業や移住という事業文脈で考えればなおさらです。このあたりは『脱住宅』(平凡社)や『2つの循環』(LIXIL出版)にまとめていますので、詳細はそちらに譲ります。

職住融合の可能性

このような考えをもとに、「食堂付きアパート」をはじめとする職住融合型の集合住宅のシリーズや、「高架下の小商い空間」といったシェア型チャレンジショップを設計してきました。そこで目の当たりにしたのは、住むことと働くことを混ぜていくと、いろいろな循環ができ、自然な形で地域のつながりができるということです。そして当然ながら、建築の空間的な魅力が重要であることは言うまでもありません。

食堂付きアパート。SOHO住戸と食堂、シェアオフィスからなる(提供:仲建築設計スタジオ)

SOHO住戸の内観。仕事場にもなるスタジオから共用廊下を見る(撮影:鳥村鋼一)

高架下の小商い空間MA-TO。地域住民の趣味や特技を活かしたまちづくりの場(提供:仲建築設計スタジオ)

シェアキッチンのカウンターではテイクアウト販売も行っている(提供:仲建築設計スタジオ)

「職住融合」の建築空間のデザインをどのようにしたら、内発的・持続的な地域活動にとって有効になるか、についていろいろな実践を積んできたわけです。このような、社会の萌芽的な事例を設計してきたことから、今回の富山県の事業に貢献できるのではないかと考え、プロポーザルに参加しました。

プロポーザルは、富山工業高校の藤井先生と学生が提案し、2017年建築甲子園で優勝した案を下敷きに組み立てられていました。粗削りながら、「富山の未来のために一歩踏み出そう」という熱い気持ちに満ち溢れていました。そして、プロポーザルにおいては建築をつくるための諸条件は、一般的なプロポーザルよりも緩く留められており、定型の無い時代の先進的なプロポーザルといえました。つまり、プロジェクトが先取の精神に満ち溢れていて、そこに僕たちは共感したわけです。

セミラティス化―縦糸・横糸で生活環境を編む

僕たちは上述のような理論や実践から、団地3棟と外構からなる生活空間を「セミラティス化」することに主眼を置きました。そこで生まれたのが、「編む」というキーワードです。

既存建築物の骨格を「縦糸」と捉え、そこに横断的な要素を「横糸」として重ねるという建築的操作です。

「横糸」によって経路を選べるようにする(提供:仲建築設計スタジオ)

これによって生み出されるのは、外部においては各棟や庭を有機的に結びつける歩廊、建物内部においては界壁を開口して階段室同士を結びつける中廊下やシェアスペースです。

なかでも、創業支援施設南側に増築されるコモンアーケードはこのプロジェクトの主役です。2層吹き抜けの屋根付きの外部廊下で、チャレンジショップやコワーキングスペースがそこに顔をのぞかせます。屋上は3階レベルのテラスとして利用され、やはり諸室を行ったり来たりできる「横糸」です。

創業支援施設(仮称)のイメージ)(提供:仲建築設計スタジオ)※画像は計画段階のものであり、最終的な仕上がりと異なることがあります

プロポーザルの提案書は富山県のホームページで閲覧できます(ただし、プロポーザルでの提案内容と実際の整備内容は異なります)。https://www.pref.toyama.jp/100222/sangyou/nyuusatsu/koubo/kj00020957.html

次回は設計内容についてもう少し掘り下げてみたいと思います。

なお、これまでの経緯についても県のホームページにまとめられています。現場の状況なども随時アップデートされていますので、ご覧になってください。
https://www.pref.toyama.jp/100222/sougyo/01.html

 

余談…

今年の4月から富山駅近くにアパートを借りて、現場に通っています。これを機に、中学生の頃からの念願だったロードバイクを買いました。ずいぶん回り道してしまいました…自転車を買う機会は何度かあったのですが、MTBを買ってしまったり、結婚してからは2回もママチャリを買ってしまったりと、初志貫徹できずにいました。自転車で富山を走っていると色々なことに気がつきます。そんなこともコラムに書いてしまうかもしれません(笑)。ちなみに、週末に時間をつくって真っ先に行ったのは、砺波平野でした。

仲 俊治(なかとしはる)

PROFILE

仲建築設計スタジオ

東京都目黒区五本木3-21-6
https://www.nakastudio.com

仲 俊治(なかとしはる)

建築家、仲建築設計スタジオ共同代表

1976年京都府生まれ。1999年東京大学工学部建築学科卒業、2001年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。
2001~08年山本理顕設計工場勤務を経て、2009年仲建築設計スタジオ設立。2009-11年横浜国立大学大学院Y-GSA設計助手、2019年第1回小嶋一浩賞。
主な作品(受賞)に、五本木の集合住宅(住まいの環境デザイン・アワード2019グランプリほか)、食堂付きアパート(第31回吉岡賞、日本建築学会新人賞、グッドデザイン賞2014金賞ほか)、上総喜望の郷おむかいさん(千葉県建築文化賞ほか)、白馬の山荘(第16回JIA環境建築賞優秀賞ほか)など。
主な著書に、『2つの循環』(単著、LIXIL出版、2019年)、『脱住宅』(共著、平凡社、2018年)、『地域社会圏主義』(共著、LIXIL出版、2012年)。

仲建築設計スタジオ

宇野 悠里(うのゆうり)

建築家、仲建築設計スタジオ共同代表

1976年東京都生まれ。1999年東京大学工学部建築学科卒業、2001年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。
2001~13年日本設計勤務を経て、2013年より仲建築設計スタジオ共同代表。
主な作品(受賞)は仲氏と同様。