MENU

連載記事

連載記事

わかもん

富山工業高校生のプランが基になり、全国に先駆けて整備される職住一体の施設「富山県創業支援センター / 創業・移住促進住宅」(愛称:SCOP TOYAMA)が今秋オープンします。「わかもん〜高校生のプランが現実に〜」は、「建築家 仲俊治✖️富山工業高校教諭 藤井和弥✖️とやま建設ラボ」の3者によって、この施設が完成されるまでを綴る期間限定連載です。

※隔週火曜日に公開

仲建築設計スタジオ

(なか) 俊治(としはる)


「SCOP TOYAMA」

対談記事が2回続いた間にも、工事は関係者のご尽力で着々と進められています。今回のコラムは現場レポートに充てたいと思います。いつもより画像が多めでお届けします。

…と、そのまえに。 

4月20日、新田知事の記者会見があり、蓮町で進められているプロジェクトの愛称とロゴが発表されました。その名も「SCOP TOYAMA」。発音しやすいし、覚えやすいし、素敵な名前ですね!ロゴのデザインは、本体工事のサインデザインを担当して頂いていて、高校生ワークショップにもご協力頂いた、グラフィックデザイナーの中尾千絵さん(ちえのわデザイン)によるものです。

【画像1】SCOP TOYAMA ロゴ(提供:富山県)

 

この愛称は、富山工業高校の学生と富山県がともに考えたものです。そのきっかけに僕も携わることができまして、それはちょうど一年前の春のことになりますが、2021年度の第1回ワークショップにて、「ネーミングを考える」というワークショップを企画しました。コピーライターの吉岡奈穂さんと、先ほどご紹介した中尾千絵さんをお招きして、「名付ける」ことについてのショートレクチャーをしたのちに、高校生たちにはネーミングを試しに考えてもらいました。

【画像2】「ネーミングを考えよう」ワークショップ。レクチャーする吉岡奈穂さん(提供:仲建築設計スタジオ)

【画像3】ワークショップでの案だしの風景(提供:仲建築設計スタジオ)

 

その後、じっくり考える期間を設けて、ネーミングを募集し、県担当課の方で集約していったという流れになります。ロゴの配色は、本体工事でのサイン計画でのカラースキーム(色彩計画)から来ています。カラースキームは、建物コンセプトである「縦糸、横糸」から見出されたものですが、その途中では中尾さんとたくさん議論しました。のちほど、サイン計画の一端をご紹介しようと思います。

 

現場の様子

 これまでは内部での工事が多かったのですが、ここに来て、外部での増築工事が急ピッチで進められています。創業支援センター(北3号棟)では、コモンアーケードの鉄骨の骨組みが組み上がってきました。肉厚の鋼管を鋼管杭の上に直接載せるという工法ですが、精度の高い骨組みを実現していただいています。

【画像4】北3号棟コモンアーケードの工事状況(提供:仲建築設計スタジオ)

【画像5】北3号棟コモンアーケード2階から。右奥に、湾曲した歩廊が見える(提供:仲建築設計スタジオ)

 

3棟ある建物や広場を繋ぐ歩廊も立ち上がってきました。画像5の右側に、カーブした屋根が小さく見えますが、わかりますでしょうか。この歩廊、きれいに弧を描いていて、凛とした佇まい。いろいろな確認や調整が必要でしたが、関係者の皆さんが大切に受け止めてくださり、ともに進めてきました。創業や移住という選択をされた利用者が、良い意味での緊張感を感じ続けられると思います。

 

創業支援センターの内部でもいろいろな工事が進んでいます。4階の中廊下も雰囲気が見えてきました。補強壁として新設した鉄筋コンクリート(RC)の打ち放し壁がきれいです。

【画像6】北3号棟4階の工事状況。既存界壁に開口し、中廊下が続いている(提供:仲建築設計スタジオ)

増設のRC壁はコンクリートを横から注ぎ込む格好になるので、普通とは異なる難しさがあるのですが、美しいモノをつくって頂きました。

創業・移住促進住宅は工事がだいぶ進んでいます。北2号棟の南面には、ウッドデッキのテラスと大きな庇が設置され、駐輪場も仕上がってきました(画像7)。このテラスは、住人たちなら誰でも使えるコモンリビングの外側に設けられたものです。これからの季節は、みんなで集まって外で食事なんていいですよね。

【画像7】北2号棟南面の工事状況(提供:仲建築設計スタジオ)

アパートメントやシェアハウスには照明や表札サインが取り付けられています。

【画像8】北2号棟4階アパートメントに取り付けられた表札(提供:仲建築設計スタジオ)

【画像9】北2号棟4階アパートメントの工事状況(提供:仲建築設計スタジオ)

【画像10】北2号棟2階シェアハウスの表札と階段室どうしを結ぶ中廊下(提供:仲建築設計スタジオ)

【画像11】北2号棟2階シェアハウスの個室前。上がり框収納兼ディスプレイが見える(提供:仲建築設計スタジオ)

先ほど触れたコモンリビングには、造り付けのベンチが設置され始めています。丸いテーブルと座面のクッションを待つばかりです。いろいろなスタイルで食事がとれるようにしています。

【画像12】北4号棟1階コモンリビングのベンチの施工状況(提供:仲建築設計スタジオ)

照明、サイン、家具が入ると、途端にその建物に命が宿った感じがしました。

 

デザインと思想

それは、それぞれのデザインに、思想が詰まっているからだと思います。

例えば表札サイン。もう一度、画像8や10を見て頂けますでしょうか。「縦糸と横糸を編む」という建物コンセプトを体現したものになっていることがお分かりかと思います。住戸番号は紺色です。SCOP TOYAMAのロゴ(画像1)のカラーリングは、ここから来ています。爽やかなデザインです。ちなみに白い部分は表札を差し込むところで、透明アクリル板で保護されています。

サインやロゴのカラースキームについて僕は、かねてから課題意識がありました。リノベーションって局所的な対処の積み重ねなので、県の期待する壮大なビジョンを矮小化してしまわないだろうか。そんな気持ちがあって、サインの力も借りながら、全体像を示したいと考えていました。

これに対して中尾さんは、「だからこそ、カラースキームはロゴだけでも決められないし、サインだけでも決められない」というのが、ずっと仰っていたことでした。トータルで考えなくてはいけないよ、と。

画像13は最終形の検討資料です。

【画像13】サインの色彩検討の一例(提供:ちえのわデザイン)

この資料を見ると、建物全体をどう捉えるか、また各所のサインがどうなるかが示されています。「縦糸と横糸を編む」という建築の考え方に基づいたサインが、キャンパスのあちこちに展開するわけです。ネーミングやロゴデザインの内定を待って、中尾さんは瞬く間にたくさんの案を検討して下さり、議論とブラッシュアップを重ね、サインやロゴのカラースキームを解決しました。

さきほど、サインなどが設置された途端に、その建物に命が宿ったように感じたと書きました。3棟分および外構のすべてが完成した暁には、このサインデザインの爽やかさが隅々まで行き渡る、そんなキャンパスになるのだろうと思います。

次回の僕のコラムでは、建築計画学がご専門で法政大学教授でいらっしゃる、岩佐明彦先生との対談をお届けしたいと思っています。「活動の場を支えるデザインとは」というテーマでお話をする予定です。お楽しみに。

仲俊治

PROFILE

仲建築設計スタジオ

東京都目黒区五本木3-21-6
https://www.nakastudio.com

仲俊治

建築家、仲建築設計スタジオ共同代表
1976年京都府生まれ。1999年東京大学工学部建築学科卒業、2001年東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。
2001~08年山本理顕設計工場勤務を経て、2009年仲建築設計スタジオ設立。2009-11年横浜国立大学大学院Y-GSA設計助手、2019年第1回小嶋一浩賞。
主な作品(受賞)に、五本木の集合住宅(住まいの環境デザイン・アワード2019グランプリほか)、食堂付きアパート(第31回吉岡賞、日本建築学会新人賞、グッドデザイン賞2014金賞ほか)、上総喜望の郷おむかいさん(千葉県建築文化賞ほか)、白馬の山荘(第16回JIA環境建築賞優秀賞ほか)など。
主な著書に、『2つの循環』(単著、LIXIL出版、2019年)、『脱住宅』(共著、平凡社、2018年)、『地域社会圏主義』(共著、LIXIL出版、2012年)。