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連載記事

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職人タイムス

現場で働く職人さんを紹介する「職人タイムス」15回目は、株式会社WARMTH 坂口工務店・代表取締役の坂口智志さんです。プレカットが主流の中で、昔ながらの「手刻み」仕事にこだわる生粋の大工さん。大工の魅力、若手育成への想いなどを伺ってきました。
職人タイムスvol.15  WARMTH 坂口工務店 坂口智志さん

今回は富山市太田の坂口工務店に!

ラボ

まずは、坂口さんが大工の道を選んだきっかけを聞かせてください!

坂口さん

高校を卒業し、木材問屋で3年間サラリーマンをしていたのですが、その業界が著しく“下り坂”で(笑)。将来が見えないな…と思っていた時に、父が大工をしていたので相談してみたんです。そうしたら「じゃあ一緒にこの仕事をやろうか」と。

雰囲気も話ぶりも穏やかな坂口さん。内には大工職人の熱い気持ちを秘める

ラボ

では、「大工に憧れていた」わけではなかったんですね??

坂口さん

ですね。幼い頃は材料を運んだりと、しょっちゅう手伝いをさせられていたので正直言うと、大工は嫌いでした。ただ、絵を描いたり、木の端材でいろんなものを作ったりするのは好きだったなあと。最初は、どうしてもやりたい!という感じではなく、やってみても良いかな…という。

ラボ

下積み時代は辛かったですか?

坂口さん

建築系の学校や職業訓練校も行ってないので、全く何もわからないわけです。本当に。父も昔ながらの職人で、「見て覚えろ」タイプですし、職人さん同士の会話も何を言っているか理解できない、さっぱりわからない(笑)。一人前になるまで、他の人よりも時間がかかったと思います。ただ親に「大工をやる!」と言ってしまった手前、やり続けなければいけないという一心でした。3〜4年は、言われたことをただひたすらこなしていましたね。

ラボ

大工の面白さを感じ始めたのいつ頃ですか?

坂口さん

20代半ばですね。今はプレカット(あらかじめ工場で切断した木材を現場で組み立てる方法)が主流ですが、父はカンナやノミ、丸ノコを使った昔ながらの「手刻み」にこだわっていました。私もその技術の習得に励み、「墨付け」や「刻み」の技が少しずつ出来るようになった時に、「もっと手刻みの深み、伝統的な方法を教えて欲しい!」と父にお願いし、気づけば「もっと技を極めなければ」と、そんな気持ちになっていましたね。

坂口さんが設計・施工を手掛けた住宅

本社事務所も坂口さん自身で施工。梁は手刻みならではのキレイな曲線を描く

 

ラボ

今の時代にあえて「手刻み」の仕事にこだわる理由は何ですか?

坂口さん

手仕事のぬくもりです。曲がった木の加工や釘を使わない木組み。機械では絶対出来ない技術をあえて「化粧現し」と言って見せることで、素材のぬくもりや人の手が加わった温かみが伝わってくると思います。

「手刻みの技術をもっとアピールしたいんです」と笑う

坂口さん

プレカットであれば工期も1ヵ月ほど早いですし、コストも抑えられるうえ、さほど技術力もいりません。ですが、それではハウスメーカーさんや他の工務店さんとの違いを出せません。自分自身、大工として生き残るためには他にはない「違い」が大事になってきます。

今回伺った富山市内の新築住宅の現場。もちろん手刻みで木組みの住宅

上棟を迎えられたばかり!

現場で発見した「尻挟み継ぎ」の伝統技術

 

ラボ

手刻みの一番大変なところはどんな部分ですか?

坂口さん

全て自分で墨付けをして、加工して組み立てる。どの工程においても寸分の狂いも許されない。恐くて眠れない夜もあります。刻みが狂っていると、絶対に建ちませんからね(笑)。よく運転中に、「自分ならできる、できる!」と鼓舞しながら乗り切っていたこともあります(笑)。それだけに無事上棟したときは、嬉しいというよりも「ホッと」するという言葉が近いかもしれません。ただ、この経験が自分の自信に繋がっていくんです。

坂口工務店の番頭、針山洋史さん。坂口さんの熱い誘いを受けて4年前に入社。

今は主に2人で現場を切り盛りする

手刻みならではの伝統的な「絵図板」。この一枚に工事の進捗などの全てが記される

柱一つひとつに数字が。絵図板にはこうした数字が手書きで書かれており、進捗や図面として重要な役割を担う

ラボ

それだけのプレッシャーを抱える反面、やりがいがありそうです!

坂口さん

お施主さんに、梁の丸太を気に入ってもらえて「この丸太を見てるとお酒が進むよ!」と言われたのは嬉しかったですね(笑)。お陰様で今は忙しい日々を送っています。

手刻みゆえ、年間手掛けられる棟数も限られる。品質最優先、手いっぱいの時の依頼は仕方なくお断りするそう

ラボ

坂口さんは若手大工さんの育成にも尽力されているそうですね!

坂口さん

若い大工さんでも、親方がハウスメーカーの下請けをしている場合、プレカットの組み立てはできるけど、家一棟を自分の力で建てられるようにはなりません。手刻みの良さはそれができるということ。リスクが大きい分、一人で一棟建てる醍醐味を知ってもらいたいので、自分の技術を若い大工さんに伝える場を設けるようにしています。

「若い大工の活躍の場を広げたい」この想いが詰まった規格型住宅「komorebi」。(富山市下大久保にモデルハウス)

手刻みのコストと時間を規格型にすることで解消した住宅。建築家の荒井好一郎さんとのコラボ。

地元活性化のため、県産材もふんだんに使用

ラボ

最後に、職人を目指す若者に一言お願いします!

坂口さん

やる気が全てです。僕自身、建築系の学校を出ていないですし、やる気と我慢強さがあれば絶対職人になれます。今はネットで調べれば何でも出てくるので、なんとなくすぐに出来る気がする。けど、実際はそうじゃない。1〜2年で諦めるんじゃなくて、最低3年は我慢して続けて欲しい。大工は手刻みに込める想いや気持ち、面白み、そしてハラハラドキドキ感があります(笑)。家づくりの最初から最後まで見届けられるので、現場管理のスキルと圧倒的な技術を身につけることができる。そこが大工の魅力です!

坂口智志さん

PROFILE

株式会社WARMTH 坂口工務店

〒939-8041 富山市太田中区33番地12
TEL 076-456-8524
http://www.sakaguchi-k.com

坂口智志さん

【生年月日】 1975年9月30日
【家族構成】妻、長男、長女
【趣味】 スノーボード・庭いじり。けど、やっぱり半分仕事が趣味。
【座右の銘】「不易流行」古いものも大切にしながら新しいものを取り入れる。