連載記事
テーマに沿って12名の建築家が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第１弾のテーマは「建築設計との出会い」です。
※毎週火曜日に掲載
法澤建築デザイン事務所
テーマ vol.1 建築設計との出会い
「世界に一本しかない線」
はじめまして。法澤建築デザイン事務所の法澤龍宝と法澤由佳です。私たちは夫婦であり、お互い意匠設計をしています。
さて、今回のテーマは「建築設計との出会い」ですが、由佳さんはどこで建築設計と出会いましたか？
由佳
私は小さなころから建物、とくに住宅に興味があり、富山工業高校の建築学科に入学しました。高校では製図の授業が好きで、無心になって手書の図面を描いていたと思います。ある日、雑誌をみていると、「もく遊りん」（白山市）という建物の写真にとても惹かれました。
建物が地形にあわせて階段状に計画されていて、レストランや工房があります。中央には広場があって、劇場のような空間が作られています。
設計者は金沢工業大学の水野一郎先生。楽しくなる建物の設計に携わりたい。そんな気持ちが強くなり、就職ではなく、水野先生が教鞭をとる金沢工業大学への進学を決めました。
もく遊りん
龍宝
私の父親は、小さな材木店兼ビルダーを経営していました。職場に行ってはトレーシングペーパーで描かれた図面を見るのが楽しみで、どんな形になるのかを空想して遊んでいたと思います。こうした経緯から、建築設計の勉強をしようという一心で、建築学科のある東京の私立大学に進学しました。
入学して衝撃を受けたのが、丹下健三による代々木体育館を見学した時のことです。吊橋の技術を使って設計された建物で、構造計算によってダイナミックで美しい形状が導き出されています。様々な合理性に基づきながらも、日本が誇る橋梁技術を世界全体にPRする。そこにあるのは単に技術力や構造計算だけではなく、社会情勢やイデオロギーなど思想的側面も建築設計の重要な要素だということを知りました。
代々木体育館 (筆者撮影)
龍宝
次に衝撃を受けたのが、オランダのベルラーヘ・インスティテュートへの留学です。スタジオ課題のチューターはMVRDVのヴィニー・マース。はじめに「このスタジオの成果物はムービーです」との指示がありました。世界各国から建築設計を学びにきた学生が、ナレーション、原画作成、映像編集の3つのチームに分かれて２本のVTRを制作しました。与条件に対し、私たちの都市・建築がどのように変化するのかをシュミレーションしたものです。あたかも映画スタジオのような課題で、私が描いていた「建築設計」のイメージとは全く異なるものでした。今はYouTubeなどで公開すれば世界中にアイディア提案できる時代です。建築設計も時代に応じて道具を変えていかなければならないのだということを学びました。
Anarcity プロジェクト。ベルラーヘ・インスティテュートでの課題
２人の建築設計の出会いと原点は全く異なります。そのためか、設計案をつくるときにケンカをすることも多々有ります（苦笑）。ケンカと言ってしまうと印象が悪くなってしますが、ポジティブに考えれば、意見を重ね合わすこと。そうこうしながらも、一本の線をひいた時、あらゆる問題が「すーっ」と解決し、お互いのイメージがピンポイントで重なる瞬間があります。世界に一本しかない線。これを見つけ出すのが建築設計の醍醐味だと思います。