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連載記事

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わかもん

富山工業高校生のプランが基になり、全国に先駆けて整備される職住一体の施設「富山県創業支援センター / 創業・移住促進住宅」が今年秋にオープンします。「わかもん〜高校生のプランが現実に〜」は、「建築家 仲俊治✖️富山工業高校教諭 藤井和弥✖️とやま建設ラボ」の3者によって、この施設の完成までを綴るコラム連載です。

※隔週火曜日に公開

富山工業高校建築工学科科長

藤井(ふじい) 和弥(かずや)


「製作アイテム(照明編)」

施設の名称が『SCOP TOYAMA』に決まり、ホームページができました!かっこいい~~!!!

↓ぜひチェックしてみてください!

SCOP TOYAMA (scop-toyama.jp)

前回の仲さんのコラムにもあったように、建築物に中尾千絵さんのサインが少しずつ加わりはじめ、建物にもキャラクターが生まれはじめたように感じます。デザイナーの皆さんの手によって創造をさらに超えた素敵な建物になってきていて、完成が本当に楽しみです。

さて、今回はアイテム紹介の照明編です。

紙風船ランプ(イベントスペースに設置予定)

Ori(チャレンジショップカフェに設置予定) Photo by: Takahiro Takemori

ものづくりの学校とはいえ、椅子のような家具づくりならまだしも、照明やグラフィックの製作は生徒だけじゃなくわれわれ教員も全く初めての経験未知の領域です(どうやって進めていくんだ?という不安だらけ)。

仲さんをはじめ、岡安泉さん中尾さんからは、はじめに専門的なレクチャーをしていただきつつ、ワークショップの時間以外でも、メールやZOOMなどを使ってどんな些細な事でも丁寧にやりとりをしながら製作を進めてきました。

1年目の中間講評会での様子。試作品を前にみんなで熱い議論が交わされます

その場でイメージを伝えるためのホワイトボードは、講評会にとっても重要なアイテムでした

 

岡安泉さんからのお題

 

照明デザイナーの岡安さんから出された1年目のお題は次のようなものでした。

 

・ペンダントライトを考えてください。

・県産材を積極的に利用してください。

・まぶしさのコントロールと設置高さを意識してください。

 

この照明製作の中で特に頭を悩ませたのが、「県産材を利用する」というお題。富山生まれの高校生でも意外と分かっていない地元でつくられている素材のこと。

そしてその素材感を活かした製品を考えること。。。今回題材にしていただくことで、富山の良さを見つめ直す学びの機会にもなりました。

まずは創業・ベンチャー課の野村さん(わかもんvol.9に登場)から、いろいろと富山県産材について教えていただきながら、生徒らの意見で「五箇山の和紙」「城端のしけ絹」を使うことが決まります。

そして、野村さんからは南砺市観光協会の方を通じて、「五箇山和紙の里」「東中江和紙加工生産組合」の宮本さん、城端の「松井機業」の松井紀子さんをご紹介いただきました。

それから実際にみんなで製造工程を見学、生産者の方のお話を聞き、素材への理解をより深めるために、南砺市へマテリアルハンティングに出掛けました!

いざ、南砺市へ!!

五箇山和紙の里にて、和紙の製造工程の一つ「紙漉(す)き」の体験をしました

東中江和紙加工生産組合の代表 宮本さんには、和紙の原料となる楮(こうぞ)の皮を雪晒し(ゆきさらし)という昔と変わらない手作業による漂白方法を見学させていただきました

城端の松井機業さんでは、作業場にてしけ絹の製造工程を見学。松井紀子さんからのお蚕さんへの愛情あふれるお話から、しけ絹という素材の貴重な価値を知ることができました

しけ絹のいろいろなサンプルを手に取ってみる。素材を活かした照明のあり方をみんなで議論します

現地では、富山県立南砺平高校五箇山ガイド研究会(GGS)という部活動に所属している高校生たちに、相倉合掌造り集落を案内してもらい、学校間交流の機会にも恵まれました。

相倉の合掌造りの成り立ちについて、地元の南砺市平高校GGSの生徒に案内をしていただく。とても分かりやすいガイドは勉強になっただけでなく刺激ももらえました

合掌造り内部で囲炉裏をかこむ。みんなで五箇山和紙やしけ絹のルーツに思いを馳せる

そして試作品の製作に入ります。

素材を無駄にしないように慎重に。

五箇山和紙を丁寧に切り出し試作品をつくっているところ

 

最終的には2種類のペンダントライトの提案がありました。1つ目はカフェの隣、イベントスペースという場所に設置される空間照明のペンダントライト。越中和紙の一つである五箇山和紙を使い、売薬さん発祥の地富山県の伝統の四角い紙風船をモチーフにした「紙風船ランプ」です。

五箇山和紙をつかった1年目の「紙風船ランプ」

 

2つ目はカフェテーブルの上に設置されるペンダントライト。素材には南砺市城端のしけ絹を使っています。富山に関わりの深い「水」をイメージし、しずくの形から「したたり」と名付けられました。

城端しけ絹をつかったペンダントライト「したたり」

1年目の集大成、市民プラザで行われた最終講評会。実際の空間を模して紙風船ランプを設置し幻想的な空間をつくりました

どちらのペンダントライトもデザイナーの方々からは高い評価を得ることができましたが、より優れた製品を目指すため、2年目のシーズンは椅子のときと同様、ブラッシュアップすることが課題となりました。

 

「紙風船ランプ」のブラッシュアップ

1年目の紙風船型のセード(配光や光色を変えたり、ランプが直接見えないようにするための照明カバーのこと)では、電球を入れるときの上面の孔が目立つことや、天井面の配線がやや乱雑に見えることなどが課題点としてあげられました。

1年目の紙風船ランプ。高さや大きさのばらつきに加え天井面の配線の乱雑さが目立つ

そこで、岡安さんからも次のようなお題をいただきます。

 

・数量、サイズの再検討

・吊り方の再検討

・製作方法、見え方の再検討

・配置の再検討

 

お題にしていただくことで、より具体的な達成目標が可視化されました。先輩たちが考案した紙風船ランプの良さを活かしながら、それらの課題点を乗り越えなければなりません。(何もないところからデザインするよりブラッシュアップのほうが責任重大な気がします。。。笑)

リアリティをもって配置計画を考えるため現地で実測調査もしました

見え方や吊るす向き、サイズも含めてもう一度検討しなおします。岡安さんも何度も検討会に加わっていただきました

一つひとつの製作方法もクオリティを高めるため改良を重ねていきます

 

紙風船ランプ

そうして出来上がった2年目の紙風船ランプがこちらになります(写真は実際のものではなく、学校の実習室で仮組みを行い点灯したものです)。

富山県伝統の四角い紙風船のモチーフにより、県民の方には懐かしさを感じてもらい、県外から来た方には「薬の富山」を知ってもらうきっかけにもなります

紙風船が弾んでいるように見える空間照明のあり方を目指し、検討を重ねてきました。

セードの骨組みや構成する和紙パーツの数を検討しなおすことで、強度を向上させました   Photo by : Takahiro Takemori

1年目に引き続き、晒紙和紙のなかに雲竜紙(うんりゅうし)と呼ばれる楮の繊維が目立つ和紙を混ぜこむことで、アクセントを生み出しています   Photo by : Takahiro Takemori

 

配置について

1年目のランダムだった照明の配置も、乱雑さを整理するために意味を持ってデザインし直しています。施工上、どうしても見えてきてしまう配線のためのコードも、照明の一部としてデザインすべく、コードとセードの配置が2つの花の形にみえるよう工夫しています。

ネックであった配線もあえてデザインの中に組み込む

そして2つの花を重なりあうように空間全体に配置し、吊り下げ方も花の中心から外側に向かって高さを低くしていくことでランダムに見えるようにしています。

「一目見て花」より「よく見ると花」くらいの塩梅に抑えてデザインし直している

 

セードの吊り方

セードを吊るすテグスも、摩耗や摩擦に強く、紫外線で劣化しにくいフロロカーボン7号に変更。結び方は、固結びではほどける可能性があったので、ダブルクリンチノット結びと呼ばれる大きな魚を釣る際の釣り糸の結び方で、強度が強いです。

2年目のセードの大きさは、 200㎜角のみに揃えすっきりとした印象に

教育文化会館で行われた昨年度の最終講評会。舞台袖から

教育文化会館での最終プレゼンの様子

 

デザイナーの皆さんからは…

ひっかけるところやコードを通すところもずっと悩みながらもきれいに作れるようになったなと思って感心した。サイズ・吊り方を一種類に絞ってそれを徹底的にキレイに見えるようブラッシュアップしたのが良かった。4月からの後輩に設置をゆだねることになると思うけど、その準備もしっかりできているのですごい。(仲さん)

 

コードを数珠つなぎにつなぐと複雑でややこしくなるんじゃないかと思い、話の方向が出来るだけそっちに行かないように行かないように仕向けていたつもりだったんだけど、どんどんコードを見せていく方に話が進んでいき、これは大変なことになるんじゃないかと危惧していた(笑)。

しかし最終的にはそのコードの部分もしっかりデザインしきれていてきれいなものになっているので良かった。紙風船の形が定型ではなく、空気を膨らませて出来たような手作り感も含めて、そのランダムさが表れている点も良い出来だと思う。関わってくれた人たちのクオリティが高くて本当に驚いている。(岡安さん)

 

見た目がカチッとしていないような紙風船の膨らみみたいなものが表現がされていて不思議な感じで面白い。見たことあるようであまり見たことない光の見え方。

光が透けている面が厚みをもって見えてくるところが、コットン袋のようにも見えて独特だし、そういう一つひとつのランプの光が厚みをもって見えてくるところが面白い。(藤森さん)

これまでの取り組みも含めて高く評価していただけました。

学校で仮設した紙風船ランプ。紙風船が弾むような照明をコンセプトにしただけあってみんなはしゃいで弾みます(笑)

イベントスペースっぽく演じている人。ちょっと違います(笑)

1年目の紙風船ランプチームと岡安さんの集合写真。指導担当は渡辺先生

2年目の紙風船チームの集合写真。みんなで紙風船の手サイン。岡安さんにもやっていただいた貴重ショットです(笑)

 

WSのつづき。。。

1年目に紙風船ランプを考案した3年生も、2年目にブラッシュアップに成功した3年生もすでに卒業しています。3年目となる今年の3年生は、現場に設置することを引き継いでくれました!

配置のための原寸図をおこして型紙とし、天井に当てながら墨付けをしていきます

配置のための墨出しを手伝ってくれた今年の3年生の集合写真。 伝統がしっかりと引き継がれています!

 

「したたり」のブラッシュアップ

もう一つのペンダントライトの「したたり」のブラッシュアップです。

点灯すると一見きれいに見える「したたり」も実は課題が山積みでした。当然、岡安さんからもたくさんの検討項目が挙がります。

 

・サイズの再検討

・下からの見え方の再検討

・吊り高さの再検討

・電球位置の再検討

・製作方法 ( 個体差を減らす ) の再検討

 

ブラッシュアップのためのキックオフ会の様子

 

生徒らと考えたのは、そもそものデザインが本当にこれで良いのか?ということ。検討が十分ではないまま進めてしまっていたのではないかという疑念から、思い切ってデザインをやり直すことにしました。

当然、上記のように挙げられた、岡安さんからのブラッシュアップの方向性も頭に入れながら、先輩のエッセンスを少しでも取り入れようということも忘れないように。。。

1年目は、しけ絹の「布感」をどう活かすのか、という視点に引っ張られてしまっていましたが、しけ絹は通常の絹と違う「シボ」と呼ばれる玉模様があらわれるところが魅力だと考えるようになりました。

それに、タテ糸とヨコ糸というそれぞれ異なる産地から絹糸が集まって美しい模様を生み出すという製法も、このプロジェクトのコンセプトと通じるものがあります。そういった意味では、「布感」よりも「素材感」の美しさを大切にしたセードの製造方法を考えることにしたのです。

そこで生徒たちが考案したのが、しけ絹を「折り紙のように折って加工する」というアイデアでした。折ることでプリーツのような立体形状を生み出し、形が固定されることで課題だった個体差を減らせるのではないかという理屈です。

「折る」という製法によって形をつくる

2年目も松井機業さんへ訪問。しけ絹を使った様々な商品を見せていただきながら、しけ絹とほかの材料との組み合わせや加工方法などについてアドバイスをいただきました

 

検討を重ねた結果、しけ絹に紙を貼り合わせた生地をつくることによって、しっかりと折り加工ができるという考えにたどり着きました。使用する紙としては、しけ絹を美しく見せることができるものとして、紙風船ランプでも使用した五箇山和紙を使うことにしました。これにより、製品の精度を高め、照明全体の光の透け具合も均一にすることができます。産地が近いことも魅力の一つだと考えました。

しけ絹と和紙、不織布、半紙、トレーシングペーパーを重ねて作った生地のサンプルに、光を当てて実演

先輩方の作られたしずく型のイメージを残しつつ、しけ絹の様々な表情を表現できるようなプリーツを検討していきました。市場に出ている照明を参考にしたり、プリーツの本や折り紙の折り方などを研究したりと、様々な視点から検討しました

しけ絹で和紙を挟み、圧着することで、しけ絹の素材感を残しつつ、パリッとした硬さのある生地が出来上がります

 

Ori(オリ)

そしてブラッシュアップされ新しくなったしけ絹のペンダントライトは、「したたり」という名前から、「Ori」という名前に生まれ変わります。

この「Ori」という名前は、紙を折るの「折(おり)」、ハタを織るの「織(おり)」、そして起源や原点という意味を持つ「Origin(オリジン)」という3つの意味が込められています。 Photo by : Takahiro Takemori

通常の絹と違う「シボ」と呼ばれる玉模様が魅力。 Photo by : Takahiro Takemori

裁断した生地の端部の処理には、和紙でつくった紙テープを貼り付けています。 Photo by : Takahiro Takemori

セードの形状は、「したたり」の滴の形を引用している。 Photo by : Takahiro Takemori

教育文化会館での最終プレゼンの様子

教育文化会館で行われた昨年度の最終講評会。舞台袖から

 

デザイナーさんからは、

構造と仕上げを一体化したすごい照明。中間発表の時から1か月2か月でここまで持ってこれたのがすごい。幾何学的だけど優しい形で、和紙としけ絹のロジックがそこに入り込み、よりスマートでかっこいい照明になったと思う。(仲さん)

 

完璧すぎて言うことがないくらい(笑)。製品として売り出せるレベルで、機能もちゃんと満たしているし造形も十分魅力的。素材も県産材の良さを引き出し使い切れている所がよい。ここまでできるとは全く思っていなかったので驚いている。(岡安さん)

と、たくさん褒めていただきました!

当初は先輩の案に気を使っていましたが、思い切ってデザインの方向性を変えたことで、さまざまな問題点も解消され良い結果につながったのだと思います。しかし、これも先輩の作った下敷きがないと生まれなかったこと。想いは間違いなく引き継がれています。

Photo by : Takahiro Takemori

1年目のしたたりチームと岡安さんの集合写真

2年目のOriチームと岡安さんの集合写真。指導担当は新村先生

 

今年度のスピンオフ企画?

岡安さんから大絶賛をいただいた「Ori」については、このまま今回のプロジェクトだけに留めるのは勿体ないということで、野村さんとともに県産ブランドで販売できる方法を模索中です。新3年生たちが引継ぎ、他のパターンを考えているところで、劣化速度の確認のため点灯させて定点観測も行っています。

この先どうなるかお楽しみに!!

後輩たちが現在試行錯誤中。。。

藤井和弥

PROFILE

富山工業高校

藤井和弥

富山工業高校建築工学科科長
1982年生まれ。富山県高岡市出身。
2016年・2017年に出場した建築甲子園で、同校の監督として2連覇に導く。
2017年の優勝作品「夢を描きながら住まうこと〜地域を創るわかもん団地〜」は、富山市蓮町の県営住宅を改修して行う「創業支援施設・U I Jターン者等住居事業」として実現する。2022年春に完成する予定。
横山天心氏との共同設計「街のヴォイドに開く町屋」は、2020年度グッドデザイン賞を受賞

富山工業高校建築工学科 Instagram
https://www.instagram.com/tomikoarchitects/