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連載記事

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ケンチクノワ2

富山を拠点に、県内外で活躍する個性豊かな建築家・建築士10名によるリレーブログ。
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第2弾のテーマは「完成までのプロセス~人との出会い~」です。

※毎週火曜日に掲載

吉川和博一級建築士事務所

吉川(よしかわ)和博(かずひろ)


テーマ vol.02完成までのプロセス
       ~人との出会い~

「建築士とかけて、映画監督ととく」

とある夏のある日、私は現場で鍬を振ってトロ舟の中の土を耕していました。隣では70代の大工の棟梁が藁の束を木槌で叩いて細かくしています。古い納屋を改装するプロジェクトだったのですが、わがままなデザイナー(私)が、元の納屋に使われていた土壁の土をもう一度練り直して、仕上げ材として使いたいと提案したことが事の発端です。

「もうこの近所には本物の土壁を作れる職人はいないから、山ふたつ向こうから来てもらうしかないね」

ということで駆けつけてくれた職人さんも80代。腰が痛くて長時間作業ができないから、時折作業を代わっては土壁用の土を作っていたのでした。「この仕事が、おらの人生最後の仕事だな」と、どかっと腰を下ろしながらガハハと笑顔で話す土壁職人。無理をさせたら熱中症で倒れかねないくらいの良い天気の日でした。

①トロ舟の中で土と藁を混ぜ合わせる ②土壁職人さん ③大工の棟梁 ④人生最後の仕事だと張り切る二人のベテラン職人

「ここにしか無いものを作りたい」と思うと、前例が無かったり失われかけた技術だったりと、いつも何かしら障害があるものです。それを解決してくれるのは、職人さんや作家さん、アーティストさんとの出会いだったりします。独立してまだほんの数年ですが、自分の事務所から生み出す建築には、どこかしらそういう要素を組み入れたいと思っていて(勿論施主の意向もあるので毎回ではない)、その度に新しい出会いがあるのが楽しみの一つです。

①フルーツのペンダント照明/オバタ硝子工房 ②木製ワゴン・野菜箱・スツール等/KAKI CABINET MAKER ③セメントとガラス玉のテーブル/鳥居セメント工業 ④アイアンのサイン/IRON CHOP ⑤果物のドローイング/百石結衣さん ⑥翡翠ガラスのペンダント照明/富山ガラス工房

 

「建築士は結局のところ、実際は何も作れないのかもしれない」

これは東京で組織設計事務所に就職して、実務に携わるようになったばかりの頃に感じたジレンマでした。

最初に関わった仕事は、ベトナムのホーチミンに建てる大きな展示場のプロジェクト。その時の上司のアドバイスは、「ディテールを考える時、現地の職人技術でできる工法の範囲内でより良いデザインを考えなければならない。日本の職人とできることも精度も違うから、そこも考慮してデザインするように」というものでした。

その制限の中でどうしたらかっこいいものができるのかを考えるのはとても面白い作業でしたが、一方で建築士が構想したものは結局、最終的には海の向こうの見知らぬ国で、見知らぬ人の手によって作られるのだな…と。海外プロジェクトで建物の規模も大きかったことも相まって、なんとなく建築士と建築との距離を痛感した出来事でもありました。

「建築士は映画監督と似ている」と、学生の時に誰かに言われたことを思い出しました。「映画監督は、演技をするわけでも、CGを作るわけでも、衣装を作るわけでも、音楽を演奏するわけでもない。手や体を動かすのは役者やアーティストだけど、監督は全体をイメージして全てをコントロールできなければならない。建築士も同じだよ」と。

そんな中、当時バイト先で出会った映画や音楽に詳しい先輩に勧められるがまま、片っ端から沢山の映画を観ました。クリストファー・ノーランやらスタンリー・キューブリックやら、耳障りのリズミカルな監督名を言うだけでなんとなく”通”ぶれるのだけど、実際にはその難解な作品の本質は何一つ理解できてないまま…。

でもそんな中、今でもお気に入りなのが、ガイ・リッチー監督の「LOCK STOCK & TWO SMOKING BARRELS」です。個性的なカメラワークやクライマックスで鮮やかに伏線を回収していく物語構成、要所要所のユーモアやちょっとしたイタズラは、若かりし建築学生の感情を色々な方向に揺さぶりました。この出会いは今でも私のものづくりに沢山の影響を与えてくれていると思います。

ガイ・リッチー監督の「LOCK STOCK & TWO SMOKING BARRELS」

 

そうそう、ガイ・リッチーは監督でありながら”ちょい役”で自分の作品に登場することでも有名ですよね。「そうか、その手があったか!」ということで、今まで私が設計した空間の中には、職人さんや作家さんの陰に隠れて”ちょい役”で私も作り手として登場することがあります。

大抵の場合、面倒臭いこと言いすぎて職人さんに嫌がられ、「それなら自分でやります」という流れが多いのですが…、この建築士と建築との自分なりの距離感が、結構気に入っていたりもします。

「輪切りにした廃材の柱で床を作りたい」と言ったら断られ、結局自分で作っているの図。一つ一つ、ヤスリがけ、鉋がけをしたパーツは1000枚以上になってしまった。そりゃ嫌がられるわな…。

(おもちゃにもなる床材”つんどこ” https://mss-architects.com/02_tsun-doko/)

【今日出てきた作家・職人リスト】

・オバタ硝子工房 http://oni-glass.com

・KAKI CABINET MAKER https://www.kaki-jp.com

・鳥居セメント工業 https://torii-cement.com

・IRON CHOP https://www.instagram.com/ironchop_/

・富山ガラス工房 https://toyama-garasukobo.jp

吉川和博 (一級建築士)

PROFILE

吉川和博一級建築士事務所

富山市岩瀬文化町42
HP:https://mss-architects.com

吉川和博 (一級建築士)

1982年 静岡県沼津市生まれ
2009年  東京理科大学大学院 山名義之研究室 修了
     株式会社日建設計勤務
2011年 富山に移住 VEGA貫場幸英氏に師事
2015年 青山建築・計画事務所 勤務
2018年 デザイン事務所マルサンカクシカク 設立
2020年 吉川和博一級建築士事務所 設立