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連載記事

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ケンチクノワ2

富山を拠点に、県内外で活躍する個性豊かな建築家・建築士10名によるリレーブログ。
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第2弾のテーマは「完成までのプロセス~人との出会い~」です。

※毎週火曜日に掲載

dot studio一級建築士事務所

上野(うえの) 宏岳(ひろたけ)


テーマ vol.02完成までのプロセス
       ~人との出会い~

「体験」

北陸新幹線が開通する直前の冬、吹き曝しの富山駅のホームで、もくもくと湯気が上がるうつわを手に、立山そばをすする学生の姿が今でも目に焼き付いている。

人気のない駅前の雪道で、ザク、ザク、という自分の足音を聴きながら、ここで暮らすのか、と、ポケットの駐車券を強くにぎりしめていた。

いざ設計となると、環境が変わるとこんなにもプロセスが変わるのかと、頭を悩ませた。設計行為自体に変化はないものの、積雪地域での設計経験がなかった私は、必要な知識を得るために様々な参考書を読み漁り、定量的な環境の変化に対応していった。

ただ、現場になると、そう一筋縄にはいかなかった。共通の知人等が全くいない現場で、地名すらままならいない状態でコミュニケーションをとっていくのが想像以上に難しかったのである。

難しかったというか、なんとも説明しがたい寂しい気持ちになることが多かった。私自身、特に現場においては、必要な業務連絡のみのコミュニケーションというよりは、現場管理者の人や各業種の職人さんとの会話のなかで、その土地の建築がどのようにつくられているのか、生(なま)の情報を得たいという想いがある。

なので、挨拶や休憩中のちょっとした雑談も積極的に自分から声をかけるタイプだが、来たばかりの頃は、会話の節々に出てくる地名、人物名、会社名などがまったくわからず、会話に入っていくことがほとんどできなかった。別に外国に来たわけでもないのに、、、と、業務的な会話のみでも問題はないが、胸の内に影を落としていた。

その状況が変わったのは、しばらくたった後の別の現場だった。業務外でも気さくに話してくれるその人は、仕事外でも設計に関わる話ができる人で、その人を通じて様々な職人さんと話せる機会が増え、自分の中で密度の濃い現場になるのと同時に、富山に関する様々な話をすることができた。

設計して建物が完成するまで、孤独に耐えながら修行僧のように取り組む場面もあるが、つくるときには現場に必ず誰かほかの人がいて、その後も様々な人々が使っていく。改めて、建物が完成するまでのプロセスでの人との関わりや出会いの重みを噛み締めた。

現場での何気ない会話は、図面を書いて見積もりをとって、現場が始まって竣工し、定期的なメンテナンスがある。という一連の業務的なプロセスの外にあって、記録されることはない。思い出すのも困難なものであるが、そんな体験が、気づかないうちに自分の日常をつくり出し、空間を創作するベースになっているのかもしれない。

上野宏岳

PROFILE

dot studio一級建築士事務所

〒939-8081
富山市堀川小泉町1-4-12-2F
https://www.dotstudio.co

上野宏岳

1985年生まれ 千葉県千葉市出身
2011      法政大学大学院工学研究科建設工学専攻建築学領域修了
2011−2014  川辺直哉建築設計事務所
2015     dot studio