連載記事
テーマに沿って10名の建築家・建築士が建築設計への想いや考えを綴り、バトンを繋ぎます。
第1弾のテーマは「建築設計との出会い」です。
※毎週火曜日に掲載
福見建築設計事務所
テーマ vol.01建築設計との出会い
「ファーストインスピレーション」
エスキスをしていても巡り廻って、結局初めの案が良かったなんてことがよくあります。私の建築との出会い、そして今ここで建築設計を仕事としているのも、すべて子供の頃のファーストインスピレーションが影響しているのだと思います。
小学3年生の頃、家族旅行で東京に連れて行ってもらいました。日常のテレビに映る高層ビルや有名な建物、初めて見る建物にワクワクしたことを今でも鮮明に覚えています。そして『富山にも東京みたいな建物がいっぱいあればいいのに』と思ったことが最初の建築へのきっかけだと思います。
その頃に「自分は建物の設計をするんだ」と夢見たわけではなく、建物をつくるという仕事があると漠然としたものが芽生えた程度の感覚だったと思います。
その後大学受験が近づき、将来の事を考えた時に何気なく、「進むべきは建築だろう」との思いで受験勉強を始めましたが、決して優秀とはいえない少年だったため、途中で勉強が嫌になり、地元に残りたいという理由だけで、全く別の分野の大学に進んでしまいました。
しかし、これが私の中の一番大きなターニングポイントでした。違う分野の勉強を始めた途端に、幼少期から秘めていたであろう建築への想いが沸き上がってきて、建築系の大学に入りなおして「建築の道に進みたい」という想いが抑えられなくなりました。結果、ほんの数か月で大学を中退し、改めて受験勉強を始めました。この気持ちに気づけたことが、本格的に建築設計を志したきっかけだと思います。
新たに大学に入りなおしてからは、まず建築を学ぶ学生は一番初めに教わるであろう世界の3大巨匠の一人、ミース・ファン・デル・ローエに影響を受けました。『バルセロナ・パビリオン』や『シーグラムビル』などは、のちに直接目にする機会を得ましたが、シンプルで洗練されたデザインと機能性が融合された美しい空間に魅了されました。
ミースへの憧れは、幼少期に見た都会的な都市空間にも大きな影響を及ぼした建築家であるというところもベースにあったのだと思います。
私は現在、富山県内の公共施設などを中心に比較的大規模な建物の設計をすることが多いですが、今では富山を東京に!などという発想は持ち合わせてはおらず、その土地の環境や歴史などを理解し、その場所にふさわしい建築を創ることを目指しています。
『Less is more(少ない方が豊かである)』ミースの残した有名な言葉のひとつですが、私の事務所の代表には、昔から『設計図面の線は少なくする。それがシンプルで美しいデザインになる』と教えられています。今の事務所で設計をしていることも幼少期のファーストインスピレーションを磨き上げた結果、必然的に辿り着いたのだと感じています。
最後に…
数か月前、小学3年になる息子を連れて東京に行ってきました。その時に、初めて見るビルの高さやスカイツリー、東京駅などを見てとてもはしゃいでいました。このコラムを書くまでは意識していませんでしたが、ちょうど私と同じ境遇を体験しているのだなと、嬉しくなりました。今はサッカー選手を夢見ているただのサッカー小僧ですが、将来どうなっていくのか、楽しみが一つ増えました。